私たちは日々、多くの人と接しながら生活しています。SNSの友達、会社の同僚、家族、知人──
一見すると“つながり”に囲まれているように見えても、「本当に安心できる人間関係を持っているか?」と問われると、答えに詰まる人は少なくありません。
しかし、ここで知っておきたいのは、「安心できるつながり」は、環境や運ではなく、自らの意思と行動で“選び取ることができる”という事実です。
たった一人でも「信頼できる人」がいれば、人は孤独を感じにくくなる

ハーバード大学の成人発達研究(Harvard Study of Adult Development)では、実に75年以上にわたり724人を追跡調査し、幸福や健康の要因を分析しています。
この研究で最も注目されたのが、「人間関係の質が人生の満足度を決定する最大の要因である」という点です。
研究結果によれば、「深く信頼できる関係を少なくとも一つでも持っている人は、そうでない人に比べて、精神的にも肉体的にも健康で長寿になる傾向が高い」とされています。
実際、孤独感を慢性的に感じている人は、そうでない人に比べて死亡リスクが26%高くなるというメタ分析結果(Holt-Lunstad et al., 2010)もあります。
つまり、信頼できる人間関係が1つでもあるだけで、私たちの心と体に大きな好影響をもたらすのです。これは「数よりも質」の証拠でもあります。
「今この瞬間から」選び取るとはどういうことか?

人間関係は、「合う人と偶然出会えるかどうか」ではなく、「どの関係をどう育てていくか」によって築かれます。
つまり、「この人とは気が合わないかもしれない」「傷ついた経験があるからもう人に期待しない」と心を閉ざしてしまえば、関係性はそれ以上育ちません。
一方で、「この人とはもう少し深く話してみよう」「自分の弱みを話してみよう」と決意し、小さな勇気を持って踏み出せば、関係性は一歩進みます。これが「選び取る」という行為の本質です。
自分から一歩踏み出すこと──
これが、居場所や安心感を得るために必要な“行動”です。誰かから与えられるのを待つのではなく、「この人と深くつながりたい」という意思をもって関わることで、信頼は築かれていきます。
SNS時代に必要なのは「量より密度」

SNSでは、フォロワー数やいいねの数で「つながりの価値」が測られてしまいがちですが、それが実際の信頼度とは大きく異なります。
心理学的には、関係性の「密度(density)」──
つまり、どれだけお互いに心を開いて話せているか、が幸福感に大きな影響を与えます。
心理学者ロバート・ウォールディンガー(ハーバード大学教授)はこう語っています。
「人生の質は、人間関係の質によって決まる。良質な関係は、心だけでなく体も守るバリアとなる。」
この「質の高いつながり」とは、日常のちょっとしたやり取りの中から育まれていくものです。例えば、
- 本音を言えた
- 相手がちゃんと聞いてくれた
- 悩みを否定せずに共感してくれた
こうした経験の積み重ねが、「この人なら大丈夫」と感じる“安全基地”になります。
今ここにいる自分が「つながりを変える」起点になれる
「でも、私にはそんな相手がいない」と感じる人もいるかもしれません。
その場合、まずは「小さな関わり」を丁寧にすることから始めてみてください。
たとえば、
- ありがとうをきちんと伝える
- 相手の話を最後まで聞く
- 自分の失敗や本音を少しだけ話す
こうした行動は、たった数回のやり取りで“人間関係の密度”を高める効果があります。
また、孤独を感じやすい人は、匿名性の高いオンラインコミュニティやサポートグループに参加することで、「共感」という形で他者とつながる感覚を得られるケースも多くあります。
現代では、自分に合ったつながりを選び直せる手段が増えているのです。
安心できるつながりは、「今ここから」始められる
誰かと深くつながるのに、特別なスキルや資格は必要ありません。
必要なのは、「この人と信頼関係を築きたい」という意思と、ほんの少しの勇気です。
私たちは、過去の関係や今の孤独を「変えられないもの」として受け入れがちですが、実は、安心できるつながりはいつでも“再スタート”できます。
総じて、「居場所がない」と感じるときこそが、「自分で選び直すチャンス」です。
あなたが「この人と信頼したい」と思う相手に、少しだけ心を開いてみること──
それが、「安心できるつながり」の始まりであり、人生を変える一歩です。
参考文献・データ
- Harvard Study of Adult Development(Robert Waldinger, 2015)
- Holt-Lunstad et al., 2010: Social Relationships and Mortality Risk: A Meta-analytic Review
- SNSに関するユーザー調査(総務省「令和4年情報通信白書」)