人生の「還元率」とは、単なる効率の良さではなく、自分が投入した時間・お金・エネルギーがどれだけ「自分の成長」や「幸福感」につながったかを測る主観的かつ実感的な尺度です。
そして、この還元率を高めるために必要なのが、「人生の主導権」を自分に取り戻すことです。つまり、自分で選べる選択肢を増やすこと。それを体系的に実現する方法が「人生ポートフォリオ」という考え方です。
たとえば、1日のうち仕事に費やす時間が8〜10時間、通勤時間と準備を含めるとさらに2時間。残りの時間で家事や食事を済ませると、自分の意思で自由に使える時間は実はわずか1〜2時間しかありません。
この残り時間の過ごし方が、自分の将来にどう還元されているか、じっくり考えたことはあるでしょうか?
多くの人は、この1〜2時間を惰性でスマホやテレビ、SNSに使ってしまいがちです。しかし、もしこの時間を「副業のスキルアップ」や「新しい人脈との接点作り」「自己表現の発信」などに充てれば、数ヶ月、数年後にリターンが返ってくる確率は高まります。
事実、副業を始めた人のうち3人に1人は、年間10万円以上の追加収入を得ているという調査結果(ランサーズ2023年調査)もあり、そのような収入だけでなく、「やりがい」や「自己効力感の向上」を感じた人も多数います。
また、経済学の観点からも「選択肢が多い人ほど幸福度が高い」という研究は多数あります。
ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センが提唱した「ケイパビリティ理論」では、豊かさとは「どれだけ自由に生き方を選択できるか」にあるとされます。
つまり、自分の時間をどう使うか、自分の能力をどう活かすか、自分の周囲にどんな人間関係を築くか、という自由が多ければ多いほど、人はより充実した人生を送れる可能性が高まるのです。
人生ポートフォリオを設計することは、こうした選択の自由度を高めるための戦略的思考です。重要なのは、「今すぐすべてを変える」ことではなく、「少しずつリスク分散を始める」ことです。
たとえば、「月1回、異業種の人とランチをする」「週に1時間、興味のある分野のスキルを学ぶ」「毎日1ツイートだけ、思ったことを発信する」といった、小さな行動の積み重ねが、数年後には強固なポートフォリオを築く土台になります。
これらの行動によって得られるリターンは単なる経済的利益にとどまりません。「自分で選んで行動できた」という主体感は、自己肯定感や心理的な安心感につながります。
メンタルヘルスの分野では、「自己決定感」が高い人ほど、ストレス耐性が強く、長期的に幸福度が高い傾向があることがわかっています(Self-Determination Theory, Ryan & Deci, 2000)。
さらに、こうした分散された人生設計は、外的な環境変化――
たとえば、会社の倒産や職業構造の変化、個人的な人間関係の変化など――
に対してもリスクヘッジになります。コロナ禍で仕事や人間関係が一変したことを経験した人なら、ひとつの会社、ひとつのコミュニティ、ひとつのスキルにすべてを依存することの危うさを痛感しているはずです。
だからこそ、人生ポートフォリオは単なるライフハックではありません。それは、将来の不確実性に備えながら、今この瞬間の人生の充実度を高める「選択の設計図」なのです。
何より重要なのは、これを「自分で組み立てる」こと。他人や社会の期待に基づく選択ではなく、自分自身が納得できる配分と行動を、自分の意思で作っていくことこそが、最も高い還元率を生む鍵です。
今日この瞬間からでも遅くありません。自分の人生に「1つ、分散の選択肢を加える」。この行動が、明日の自分の幸福と可能性を豊かにしてくれる第一歩になります。