最近、ニュースやビジネス誌を開けば「人手不足」という言葉を目にしない日はありません。「求人を出しても応募が来ない」「若手が定着しない」「人材が育たない」。こうした声は、業種や企業規模を問わず、あらゆる現場で聞かれています。
ですが本当に不足しているのは“人の数”なのでしょうか?
実際、厚生労働省のデータによると、有効求人倍率は上昇傾向にある一方で、企業側が「採用したい」と思うような人材にはなかなか出会えないという声が年々増えています。背景には、ただ業務をこなすだけの“使える人材”ではなく、時代や仕事の変化に合わせて“使えるように変わっていける人材”を企業が求めているという現実があります。
特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)や業務の自動化が進む今、業務の内容は以前とは大きく変わりました。昔のやり方に固執していては、通用しない場面が増えています。では、どんな人材が「変化できる人材」として評価されるのでしょうか?そして、そうなれるためには、何を学び、どんなスキルを身につける必要があるのでしょうか?
あなたの職場でも、「この人は柔軟に対応して成長しているな」と感じる人がいるかもしれません。反対に、「仕事はできるけれど変化に弱い」と思われてしまう人も見かけませんか?
私たちが今直面している人材不足の問題は、「採用すれば解決する」ほど単純なものではありません。
「人手不足を解消するためには、既存の人材を育成し、スキルアップさせる」ことの重要性を軸に、DX人材の育成やマイクロラーニング、個別最適な学習の方法まで掘り下げていきます。
これからの時代、本当に必要とされる人材とはどんな人なのでしょうか?
その答えを、考えてみませんか。
人手不足の誤解と変化への適応力の重要性

「人手が足りない」という言葉は、あらゆる業界で日常的に聞かれるようになりました。特にサービス業、製造業、IT業界、医療介護分野などでは、深刻な労働力不足が問題となっています。しかし、ここで見落としてはならないのは、「本当に人が足りないのか?」という問いかけです。実は、求人倍率が高くなっているにも関わらず、企業側の採用がうまく進んでいないのは、単に人数の問題ではなく、“求める人材像の変化”と“企業の対応の遅れ”に起因しているケースが多いのです。
「人手不足」は量より質の問題になっている
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和6年1月)」によると、有効求人倍率は1.27倍で、求人数の方が求職者より多い状況が続いています。つまり、統計上は「働きたい人がいない」のではなく、「企業が採用したいと思う人が少ない」という状態が顕著になっているのです。
ここで注目すべきは、企業が求める人材の条件が以前よりも高度化・多様化していることです。たとえば「すぐに戦力として働ける」「マルチタスクができる」「新しい技術をすぐに覚えられる」「周囲と協調しながらリーダーシップを取れる」など、一人に求められる能力の範囲が広がっています。
こうした“高望み”の結果、実際に採用しても「思っていたように動いてくれない」「教えても変わろうとしない」といった不満につながっていくのです。
つまり、「人手が足りない」という企業の訴えの多くは、実は「即戦力が足りない」「変化に対応できる柔軟性のある人がいない」という“質的な人材不足”を指しているのです。
スキルよりも「変われる力」が重視される時代へ
現代は、あらゆる分野で変化のスピードが加速しています。AIの進化、働き方改革、業務の自動化、そして社会情勢の変化——こうした要因が重なり、業務の内容は1〜2年で様変わりすることも珍しくありません。こうした環境の中で、かつての「長く働けば自然とスキルが身につく」「一度覚えたことを10年使える」といった前提は通用しなくなってきています。
たとえば、IT業界では、3年前の主流だった開発言語やフレームワークがすでに時代遅れになることもあります。経済産業省の「IT人材白書」でも、今後5年以内に現在のIT人材の3割が「スキルの陳腐化によって競争力を失うリスクがある」と指摘されています。これはITに限らず、すべての業界に共通する傾向です。
そのため、現在の企業が本当に欲しているのは、スキルの完成度ではなく「変化に対する適応力」や「学び直す意欲」です。すなわち、“すでに使える人”ではなく、“これから使えるようになれる人”こそが重要なのです。
「即戦力主義」の限界と「即学力」へのシフト
多くの企業では、依然として「即戦力人材」を求める傾向が強く、求人票には「経験者優遇」「同業種での実務経験○年以上」などの条件が並んでいます。しかし、実際にはそのような条件に合致する人材は極めて限られており、結果的に採用が長引いたり、育成に時間を割かずに現場任せにした結果、早期離職につながることも少なくありません。
こうした問題を背景に、少しずつではありますが、「即戦力」から「即学力」への価値観の転換が進んでいます。たとえば、ある大手IT企業では、求人票に「未経験歓迎」と明記し、入社後のリスキリングプログラムを整備することで、応募者数が前年比で1.8倍に増加し、かつ定着率も上昇したという報告があります。
このような事例は、「学ぶ力」に投資する方が、短期的なスキル保有よりも中長期的な戦力化に結びつくことを示しています。変化が激しい今の時代では、“現在のスキル”よりも“学び続ける態度”の方が価値が高く、企業にとってもリスクが少ないといえるのです。
求人票から読み解く企業の本音
実際に、求人の文言にも企業の意識変化が表れています。以前は「〇〇業務経験者必須」「即戦力歓迎」といった文言が多く見られましたが、最近では「柔軟な発想ができる方」「未経験でも意欲がある方」「新しい環境に前向きに取り組める方」といった表現が増えてきています。
これは、企業が「教えられる用意がある」ことを示しており、求職者に対して「完璧なスキルを持っていなくても、変化に向き合う姿勢を見せてほしい」というメッセージを送っているのです。
このような求人の傾向は、特にスタートアップや中小企業、ITベンチャー、介護・福祉業界など、人材確保が死活問題となっている業界で顕著に見られます。こうした企業は、変化への適応力がある人材を“育てて活かす”という方針にシフトしつつあります。
本当に必要なのは「変化に適応する集団」
企業が持続的に成長するためには、単にスキルの高い個人を集めるのではなく、「変化に適応できる人材が集団として存在すること」が必要です。一人のスーパー人材に頼るのではなく、全員が少しずつでも変化し、学び続ける文化が社内に根付いていることが、組織全体の柔軟性と競争力を高めます。
そのためには、経営者や人事担当者の意識も問われます。「なぜ人が定着しないのか」「なぜ思ったように働いてくれないのか」という視点から、「我が社は変化を許容し、学びを支援する風土があるのか?」と自問することが必要です。
このように、「人手が足りない」という言葉の裏には、「変化に適応できる人材が足りない」という深い構造的問題が横たわっています。単なる採用活動ではなく、育成や組織文化そのものの見直しこそが、真の人手不足解消への鍵なのです。
DX時代の人材に必要なリスキリングの視点

デジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に進む現代において、企業が生き残るための重要な鍵の一つが「人材のリスキリング」です。これは単なるITスキルの習得にとどまらず、業務の進め方や思考のフレームワークそのものを変えるための再教育であり、企業にとっても個人にとっても不可欠な課題です。
DXはIT導入だけでは完結しない
DXという言葉が登場して久しいですが、実際には多くの企業が「単にツールやシステムを導入すること」だと誤解しています。
たとえば、業務を効率化するためにクラウドサービスを導入したり、顧客管理を自動化するツールを導入したりすることは、DXのほんの入り口に過ぎません。真のDXとは、デジタル技術を活用してビジネスモデルそのものを革新し、顧客や社会との関係を根本的に変えていくことにあります。
経済産業省の「DXレポート2」によれば、日本企業の約85%が「DXに取り組んでいる」と回答している一方で、その約70%が「本質的な変革には至っていない」と自己評価しています。
その理由のひとつが、「変革を担う人材の不足」なのです。ツールは導入したものの、それを活用し、新たな価値を創造できる人材が育っていない――これが多くの企業が抱える共通の悩みです。
DX人材に必要なのはITスキルだけではない
DXを推進する人材というと、エンジニアやプログラマーのような「専門的なITスキルを持つ人」を想像しがちです。しかし、実際にDXを推進する上で重要なのは、IT技術に加えて「業務理解力」「課題発見力」「変化への柔軟性」「他者と協働する力」など、非技術的なスキルです。
たとえば、ある製造業の事例では、IoTセンサーを使って生産ラインの稼働状況を可視化するプロジェクトを行いました。ところが、導入後のデータが活用されないという問題が発生。原因を探ったところ、現場の担当者が「このデータがどのように自分たちの仕事に役立つか」を理解しておらず、結局、以前のやり方に戻ってしまったのです。これは、現場とIT担当者の間に「リテラシーギャップ」がある典型的な例です。
このような事態を防ぐためには、単に「使える人」を雇うのではなく、既存の従業員に対して「DX文脈で考え、行動できる力」を育む必要があります。ここで鍵となるのが「リスキリング」です。
リスキリングは“再教育”ではなく“再創造”
リスキリング(Reskilling)は、従来の「教育」や「訓練」とは異なり、今あるスキルを時代に合わせて“再構築”することを意味します。たとえば、経理部門のスタッフがAIを活用した自動仕訳システムに対応するために、プログラムの基礎やデータ活用の知識を学ぶようなケースです。リスキリングの目的は、「新しい仕事を任せられるようにする」ことです。
マッキンゼーの調査によれば、世界中の企業のうち87%が「リスキリングが将来の競争力に直結する」と回答しています。また、リスキリングに積極的に取り組む企業では、離職率が約25%低下し、従業員満足度も向上するというデータが報告されています。これは、学び直しの機会を提供することが、従業員のモチベーションや帰属意識を高めるからです。
特に日本では、長年の「年功序列・終身雇用」文化の影響で、「新しいことを学び直す」という行為が軽視されてきました。しかし、環境が大きく変化する今、「昔取った杵柄」では通用しない現実に多くの人が直面しています。
リスキリングは全員に必要、ただし一律ではない
リスキリングが必要なのは、特定の部門や立場の人だけではありません。経営層、管理職、現場社員、さらにはパート・アルバイトに至るまで、すべてのレベルで「変化に対応する学び直し」が求められています。ただし、その内容や進め方は一律ではなく、それぞれの役割や課題に応じて最適化する必要があります。
経営層には「デジタル時代の意思決定の仕方」を、管理職には「デジタル活用による業務改善や部下の支援方法」を、現場には「日々の業務に即したツール活用力」など、層ごとに学ぶべき内容が異なります。この考え方は「パーソナライズドラーニング(個別最適化学習)」として注目されており、リスキリングを効率化するための重要な手法です。
実際、大手人材企業が実施した調査では、「学ぶべき内容が自分に合っていないと感じた場合、継続できなかった」という回答が約60%に上りました。逆に、自分の業務や関心に即した内容であれば、学習継続率は2倍以上に上昇する傾向が見られました。つまり、リスキリングを機能させるには「個別性」が不可欠なのです。
リスキリングの最大の障壁は「時間」と「動機」
では、なぜ多くの企業でリスキリングが進まないのでしょうか。その最大の障壁は、「学ぶ時間がない」と「学ぶ必要性を感じていない」という二点に集約されます。特に中小企業では、日々の業務に追われ、学びの時間を確保できないという現実があります。
こうした課題を解決する手法として、短時間・高頻度の「マイクロラーニング」が注目されています。1回数分〜15分程度の動画やスライドで学ぶスタイルで、通勤時間や業務の合間でも取り組みやすいのが特長です。ある企業では、毎朝始業前に「5分間学習」を制度化し、半年で社員のITリテラシーが飛躍的に向上したという成果も報告されています。
また、「なぜ学ぶ必要があるのか」を明確に伝えることも重要です。人は目的がはっきりしない学習には意欲を持ちにくいため、「自分が学べばどのように評価され、キャリアにつながるのか」という具体的なゴール設定が不可欠です。企業としては、「学び=評価」となる人事制度の導入や、リスキリングを昇進・昇格要件とすることが有効です。
リスキリングは、DX時代を生き抜くための必須戦略であり、単なる研修制度や一時的な取り組みではありません。むしろ、継続的な学習の習慣を企業文化として根付かせることこそが、組織の競争力を強化し、従業員のエンゲージメントを高める鍵となるのです。
企業が「使える人材」を求める時代は終わり、「変化に使えるようになる人材」をいかに育てるかが問われています。
忙しい社会人に最適な学び「マイクロラーニング」の活用

現代のビジネスパーソンは、日々の業務に追われる中で、自己成長やスキルアップのための学習時間を確保することが難しいと感じています。
そのような中、短時間で効率的に学習できる「マイクロラーニング」が注目を集めています。
マイクロラーニングとは何か
マイクロラーニングは、1回あたり1〜10分程度の短時間で完結する学習コンテンツを活用する学習手法です。スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスを利用して、通勤時間や休憩時間などの隙間時間を有効に活用できる点が特徴です 。
この学習方法は、短時間で集中して学ぶことができるため、学習者の集中力を維持しやすく、知識の定着率も向上するとされています 。HR Trend Lab+1Emprony | 成果につながる学びを届ける+1
マイクロラーニングの効果と科学的根拠
脳科学の観点からも、マイクロラーニングの効果が支持されています。「認知負荷理論」によれば、人間の記憶処理能力には限界があり、情報の量や複雑さがその限界を超えると学習効率が低下します。短時間で要点を絞った学習は、認知負荷を軽減し、学習効果を高めるとされています 。ユームテクノロジージャパン株式会社(UMU Technology Japan)
また、岡山大学の研究では、1日5分程度の短時間学習を継続することで、英語能力試験のスコアが向上することが示されました 。この研究は、短時間学習が潜在記憶に効果的であることを示す世界初の成果として注目されています。岡山大学+1岡山大学+1
忙しい社会人にとっての利点
多くの社会人は、まとまった学習時間を確保することが難しいと感じています。マイクロラーニングは、短時間で学習できるため、日常の隙間時間を活用して学習を進めることができます。例えば、通勤時間や昼休み、就寝前の数分間など、日常の中で無理なく学習を取り入れることが可能です 。HR Trend Lab
さらに、短時間の学習は集中力を維持しやすく、反復学習を促進するため、知識の定着にも効果的です。クイズ形式のコンテンツを取り入れることで、理解度を確認しながら学習を進めることができ、自分の弱点を把握しやすくなります 。ユームテクノロジージャパン株式会社(UMU Technology Japan)+1HR Trend Lab+1
マイクロラーニングの導入事例
実際に、企業や教育機関でもマイクロラーニングの導入が進んでいます。例えば、リクルートが提供する「スタディサプリENGLISH」では、最短3分のマイクロラーニングコンテンツを活用し、忙しいビジネスパーソンでも継続的に学習できる環境を提供しています 。(c) Recruit Co., Ltd.+1(c) Recruit Co., Ltd.+1
また、大阪教育大学では、教員向けのオンライン研修にマイクロラーニング形式を採用し、通勤や休憩時間などの隙間時間を活用して学習できる仕組みを導入しています 。EdTechZine
マイクロラーニングを効果的に活用するために
マイクロラーニングを最大限に活用するためには、以下のポイントを意識することが重要です。
- 目標設定: 学習の目的や目標を明確にし、モチベーションを維持する。
- 継続性: 毎日少しずつでも学習を続けることで、習慣化を図る。
- フィードバック: 学習内容に対するフィードバックを受けることで、理解度を確認し、改善点を把握する。
- 適切なコンテンツ選択: 自分のレベルや目的に合ったコンテンツを選ぶことで、効率的な学習が可能となる。
マイクロラーニングは、忙しい社会人にとって、時間を有効に活用しながらスキルアップを図るための有力な手段です。短時間で集中して学ぶことで、知識の定着率を高め、継続的な学習を実現することができます。今後、さらなる普及と進化が期待される学習手法として、注目していきたいところです。
パーソナライズドラーニングが実現する個別最適化の未来

近年、教育や人材育成の分野で注目を集めている「パーソナライズドラーニング」は、学習者一人ひとりの特性やニーズに合わせた学習体験を提供するアプローチです。特に、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む現代において、従来の一律的な教育方法では対応しきれない多様な学習スタイルやスキルギャップに対応するための有効な手段として期待されています。
パーソナライズドラーニングの核心は、学習者の理解度や進捗、学習スタイルをリアルタイムで分析し、最適な学習コンテンツや方法を提供することにあります。例えば、AIを活用した学習プラットフォーム「atama+」では、学習者の解答履歴や理解度を分析し、個別に最適化された問題を提供することで、効率的な学習を支援しています。 UI Commons
また、パーソナライズドラーニングの効果は数値的にも示されています。ある研究によれば、パーソナライズドラーニングを導入した学校では、標準テストのスコアが平均で15〜20%向上し、特に従来の教育方法で苦戦していた学生の成績向上率が顕著であったと報告されています。 株式会社APPSWINGBY
さらに、企業においてもパーソナライズドラーニングの導入が進んでいます。例えば、UIshareのような学習管理システム(LMS)では、学習者の理解度に応じたコンテンツの自動調整機能が実装されており、従業員のスキルアップやリスキリングを効率的に支援しています。 UI Commons+1UI Commons+1
このように、パーソナライズドラーニングは、学習者一人ひとりのニーズに応じた最適な学習体験を提供することで、学習効率の向上やモチベーションの維持、さらには成果の最大化を実現する可能性を秘めています。今後、教育機関や企業がこのアプローチを積極的に取り入れることで、より柔軟で効果的な人材育成が可能になるでしょう。
▼今回の記事を作成するにあたり、以下のサイト様の記事を参考にしました。



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