人生には、誰にとっても避けがたい「試練」の時期があります。たとえば、大切な人との別れ、仕事や人間関係の挫折、思いがけない病気や事故――そうした出来事に直面したとき、人は一時的に心のバランスを失い、未来への希望を見失うことがあります。心にぽっかりと穴が空いたような感覚。どれほど努力しても抜け出せないと感じる深い暗闇。そんな経験は、あなたにもありませんか?
けれども、不思議なことに、そうした逆境を乗り越えた人の中には、「以前よりも精神的に強くなった」「生き方の価値観が変わった」「本当に大切なものに気づけた」と語る人が少なくありません。悲しみや痛みを経験したからこそ、それまで見えていなかった人生の意味や、自分自身の内面の強さに気づくことがあるのです。
では、なぜ人は逆境を通じて成長できるのでしょうか? すべての人がそうなれるのでしょうか? この疑問に答える鍵となるのが、「逆境後成長(Post-Traumatic Growth, PTG)」という概念です。
PTGとは何か、どのようにして生じるのか、そしてその力をどのように私たち自身の人生に活かしていけるのかを解説していきます。
第1章:逆境後成長(PTG)とは何か?

逆境後成長(Post-Traumatic Growth, 以下PTG)とは、大きなストレスやトラウマ体験を乗り越えたあとに、人間が精神的に成長し、より豊かな人生観や人間関係、価値観を築いていく現象を指します。PTGは単なる「回復」ではなく、「質的な変化と成長」を意味し、苦しみを経たあとに、人生に対する見方そのものが変わる深い変容を伴います。この概念は1995年、アメリカの心理学者リチャード・G・テデスキ(Richard G. Tedeschi)とローレンス・G・カルフーン(Lawrence G. Calhoun)によって提唱されました。
トラウマの後に訪れる「成長」という視点
トラウマと聞くと、多くの人は「心の傷」「精神的ダメージ」といったネガティブなイメージを思い浮かべるかもしれません。実際、外傷後ストレス障害(PTSD)のように、深刻な心理的後遺症が長期間続くこともあります。しかし、PTGはこうしたトラウマ反応とは異なり、むしろ「その困難をどう意味づけるか」という認知的な枠組みによって現れるポジティブな側面を指します。
たとえば、深い喪失体験を経たあとに「命の大切さ」に気づいたり、病気を経験した人が「健康に感謝するようになった」と語るような変化がこれに該当します。これは、トラウマそのものが成長をもたらすわけではなく、「その出来事とどう向き合い、どう受け止めたか」によって成長が生まれるという考えに基づいています。
PTGが現れる5つの領域
テデスキとカルフーンは、PTGが現れる領域として次の5つを挙げています:
- 新たな人生の可能性の発見
トラウマを通して、人生における新しい選択肢や夢、可能性に気づくようになります。たとえば、重い病気を経験した人が看護師や支援者を志すなど、進路や仕事が変わることもあります。 - 他者との関係の深化
家族や友人とのつながりを以前よりも大切に感じるようになり、絆が強まります。孤独よりも「支え合い」が人間の根源的な力だと実感する事例が多く見られます。 - 個人的な強さの認識
「自分にこんなに強さがあったとは思わなかった」と語るように、想像以上の自己効力感が生まれます。危機を乗り越えた人には、自信と誇りが生まれます。 - 人生への感謝の増加
これまで当たり前だった日常が、かけがえのないものに変わる経験です。小さな幸せや平穏に対して感謝の気持ちを抱くようになります。 - スピリチュアルな気づき
生死や運命、宗教・哲学的問いに向き合うことで、人生の意味や人間の存在そのものに深い理解が芽生えます。
これらの領域は、すべての人に必ず起こるわけではありませんが、いずれかの側面で変化を感じる人は多いと報告されています。
統計データが示すPTGの広がり
実際、PTGは多くの人にとって現実的な現象です。たとえば、2011年の研究(Tedeschi & Calhoun, 2011)では、トラウマ体験を持つ人のおよそ60〜70%が、何らかの形でPTGを経験したと報告されています。特に深刻なトラウマ(災害、戦争、重大な病気、身近な人の死など)の後ほど、PTGの兆候が見られる傾向が強まることが示されています。
また、日本においてもPTGの兆候は確認されており、東日本大震災の被災者を対象にした研究(2014年:宮城県の自治体調査)では、被災から2年後にPTGを経験していると自己申告した人が全体の約65%に達したという結果が出ています。このように、災難や試練は一面的に「不幸」として語られるだけではなく、「人生を深める契機」になることがあるのです。
PTGは誰にでも起こりうるのか?
PTGは特別な人にだけ起こる現象ではありません。誰にでも起こりうる可能性を持つ、普遍的な人間の適応プロセスです。ただし、そこにはいくつかの要因が関与します。
- 個人の性格傾向(楽観性、開放性、内省性)
- 社会的サポートの有無(家族、友人、医療支援など)
- 出来事との向き合い方(再評価、意味づけの能力)
- 時間の経過(急速にではなく、数カ月〜数年かかることもある)
特に注目されているのは、「意味の再構築」と呼ばれるプロセスです。これは、自分が経験した出来事をただの「不幸」としてではなく、人生の文脈の中で「何のために起きたのか」「そこから何を得たのか」と捉え直す作業を指します。この認知的再評価こそが、PTGの鍵を握っているとされています。
苦しみは必ずしも美化されるべきではない
一方で、PTGを語る際に注意すべき点もあります。それは、「トラウマ=成長のチャンス」と安易に美化しないことです。PTGは、あくまで本人が「自発的に意味を見出す」ことによって成立します。外部から強制されたり、「あなたは成長すべきだ」と言われることで生まれるものではありません。
また、PTGが見られる人の中にも、依然として不安や悲しみ、罪悪感などを抱えている場合もあります。PTGは「全てが解決された状態」ではなく、「傷を抱えながらも新たな意味を見出した状態」として理解することが重要です。
このように、「逆境後成長(PTG)」とは、苦しみの経験を経て人間が精神的に成長するプロセスを意味します。悲劇や不運そのものを肯定するものではありませんが、それらの経験を意味づけ、人生を再構築していく力が人間には備わっているということを、PTGという概念は私たちに教えてくれます。
第2章:レジリエンスとPTGの関係性

「逆境後成長(Post-Traumatic Growth, PTG)」を深く理解するためには、「レジリエンス(Resilience)」という概念との違いと共通点を明確にすることが不可欠です。両者はともに逆境への心理的適応を扱いますが、その本質は大きく異なります。レジリエンスは「跳ね返る力」、すなわち逆境をしなやかに乗り越えて元の状態に回復する力。一方、PTGは「超える力」、つまり元の状態を超えて精神的・存在的に変容する成長の過程です。
レジリエンスは「回復力」、PTGは「変容」
レジリエンスとは、心理学的には「困難やストレスから迅速に立ち直る能力」と定義されます。よく使われる例としては、バネのように押しつぶされても元の形に戻る、というイメージです。レジリエンスの高い人は、逆境を「ダメージ」として受け取りつつも、それを効率よく処理し、感情的なバランスを回復します。これは「元の自分に戻る」ためのプロセスです。
一方で、PTGは逆境によって人間の内的な構造自体が変わる現象です。バネにたとえるなら、「曲がったまま、別の形として安定する」ような変化です。つまり、「戻る」のではなく、「変わる」ことに価値があるのです。この違いを無視すると、「回復すれば成長する」という単純な誤解を生みかねません。
レジリエンスとPTGの重なりと分岐
レジリエンスとPTGは、決して相反するものではなく、相互に関係しあう補完的な概念です。たとえば、ある人が災害を経験し、家や大切な人を失ったとしましょう。その人が冷静に現状を受け止め、生活を立て直していく力(感情の安定性、問題解決能力、社会的支援へのアクセスなど)はレジリエンスです。そして、その後「人生の価値観が変わった」「家族の絆を深めた」「社会のために何かしたい」といった内面的な成長が現れたとしたら、それはPTGの現れです。
また、レジリエンスの高さが必ずしもPTGを促すとは限りません。研究によれば、レジリエンスの高い人ほど、逆境を「脅威」とではなく「対処可能な課題」として捉えるため、認知の再構築が少なく、PTGが起こりにくいという逆説的な側面もあります(Tedeschi & Calhoun, 2004)。つまり、PTGは一度「心が折れる」ような強い衝撃を受け、その意味を問い直すプロセスから生まれることが多いのです。
実証データが示す両者の関係
レジリエンスとPTGの関係性についての研究は数多くあります。2020年にアメリカ心理学会(APA)が発表したメタ分析によると、レジリエンスとPTGの相関係数は約0.30〜0.35の範囲にとどまり、適度な相関はあるものの、完全には重ならないことが確認されています。これはつまり、レジリエンスが高い人が必ずしもPTGを経験するわけではなく、逆にPTGを体験する人が必ずしもレジリエンスに優れていたわけでもないことを示しています。
一方で、PTGを体験した人の多くがその後に「持続的なレジリエンス」を身につけるという報告もあり、PTGが後天的なレジリエンスを強化する可能性も示唆されています。たとえば、東日本大震災の被災者を対象にした追跡調査(東北大学災害科学国際研究所・2017年)では、PTGスコアが高い人ほど、その後のストレス耐性や社会的適応が向上していたという結果が出ています。
レジリエンスの構成要素とPTGの出現条件
レジリエンスは心理的特性として、多くの研究で「自己効力感(self-efficacy)」「楽観性(optimism)」「感情のコントロール力」「社会的支援の受容能力」などに支えられているとされます。これらの要素は、災害や病気、家庭問題、職場のストレスといった逆境において、行動的かつ実際的な対処を可能にする土台となります。
一方、PTGが出現するためには、「深い苦悩」と「その意味への問い直し」という心理的プロセスが必要です。このプロセスは、しばしば時間がかかり、レジリエンスが高すぎるとこの問い直しの機会が少なくなるというジレンマが存在します。これが前述の「レジリエンスが高い人は必ずしもPTGを経験しない」という理由の一つです。
しかし、ここで重要なのは「レジリエンスの質」です。単なる耐性としてのレジリエンスではなく、「しなやかなレジリエンス」──つまり、他者の支援を柔軟に受け入れ、感情に向き合い、価値観の再構築を可能にするようなレジリエンスこそが、PTGへとつながる可能性を秘めているのです。
逆境の経験は「無駄」にならない
現代社会では、逆境を回避すべき「失敗」や「リスク」と捉える傾向が根強くあります。しかし、PTGやレジリエンスに関する研究が示しているのは、「困難は必ずしも無駄ではなく、むしろ人間の内面を深める契機となりうる」ということです。これを支えるのは、経験の大小にかかわらず、「それをどう意味づけるか」という主体的な姿勢です。
たとえば、COVID-19パンデミックの初期に行われた国際調査(University of Surrey, 2021)では、パンデミックによる孤独や不安の中で、約58%の回答者が「家族や人生の優先順位を見直した」と回答し、47%が「精神的に強くなった」と感じたと答えました。これは、社会全体が経験した未曽有の逆境が、レジリエンスとPTGの両方を促す現象となった例です。
このように、レジリエンスとPTGは、逆境と向き合う際の異なる心理的プロセスを表す概念でありながら、相補的な役割を果たしています。レジリエンスが「立ち直る力」であれば、PTGは「新たな自分に出会う力」と言えるでしょう。私たちが人生で避けられない困難に出会ったとき、それを乗り越える力と、そこから何かを学び取る力を併せ持つことで、人生はより豊かで深いものになっていくのです。
第3章:日本におけるPTGの研究と事例

日本における心的外傷後成長(Post-Traumatic Growth, PTG)の研究は、近年ますます注目を集めています。特に、自然災害やスポーツ傷害、学生のストレス体験など、多様な文脈でのPTGの出現が報告されています。
自然災害とPTG:東日本大震災の事例
2011年の東日本大震災は、日本社会に深刻な影響を与えましたが、その中で多くの人々がPTGを経験しました。例えば、被災地で救援活動に従事した医療従事者を対象とした研究では、災害直後のレジリエンスと、4年後のPTGが仕事へのエンゲージメントに正の影響を与えることが示されました。この研究では、災害医療支援チームのメンバー254人を対象に調査が行われ、75.2%が4年後のフォローアップに参加しました。その結果、レジリエンスとPTGの両方が、活力、献身、没頭といった仕事へのエンゲージメントの向上に寄与することが明らかになりました 。
また、子どもたちの語りを通じてPTGの可能性を探る研究も行われています。中央大学の飯村周平氏は、東日本大震災を経験した子どもたちのナラティブを分析し、彼らが困難な状況を乗り越えて成長していく過程を明らかにしました。この研究では、子どもたちが自らの体験を語ることで、自己概念の再構築や他者との関係性の変化が促進されることが示されています 。
スポーツ傷害とPTG:アスリートの回復と成長
スポーツ傷害もPTGの重要な文脈の一つです。日本の大学生アスリートを対象とした研究では、スポーツ傷害後のPTGを評価するための尺度(PTGS-AI)が開発されました。この研究には266人の大学生アスリートが参加し、そのうち212人が高いストレスを報告しました。分析の結果、PTGS-AIは4因子16項目から構成され、信頼性と妥当性が確認されました。また、傷害の重症度や競技復帰までの期間がPTGの出現に関連することが示されました 。
この研究は、スポーツ傷害が単なる身体的な問題にとどまらず、心理的な成長の契機となりうることを示しています。アスリートが傷害を経験することで、自己の限界を再認識し、新たな目標や価値観を見出すプロセスがPTGの一部として捉えられます。
学生のストレス体験とPTG:文化的要因の影響
日本の大学生を対象とした研究では、PTGの因子構造や文化的要因の影響が検討されています。例えば、PTGI-J(日本語版PTG尺度)を用いた研究では、約40%の学生が中程度以上の成長を報告しました。因子分析の結果、対人関係の変化、新たな可能性、個人的な強さ、人生観の変化といった因子が抽出されました。また、日本の文化的背景がPTGの経験に影響を与える可能性が示唆されています 。
さらに、PTGにおける反芻思考の役割についても研究が行われています。日本とアメリカのサンプルを比較した研究では、出来事直後の侵入的反芻と最近の意図的反芻がPTGに正の関連を持つことが示されました。特に、日本のサンプルでは、出来事直後と最近の意図的反芻の両方がPTGと関連しており、文化的な違いが反芻の影響に影響を与える可能性が示されています 。
非適応的PTG:成長の影の側面
PTGは一般的にポジティブな変化と捉えられますが、すべてのPTGが適応的であるわけではありません。日本トラウマティック・ストレス学会の研究では、非適応的なPTGの状態像が明確化されています。この研究では、432人の広義の心的外傷体験者を対象に調査が行われ、非適応型PTG群は認知的回避が高く、楽観主義や行動変容が低いことが示されました。また、非適応型PTG群では、QOL(生活の質)が低下しており、適度な楽観主義がQOLを高める要因として機能することが示されています 。
このような研究は、PTGが必ずしもポジティブな結果をもたらすわけではなく、適応的な成長と非適応的な成長の違いを理解することの重要性を示しています。PTGの質やその後の行動変容が、個人の生活の質に大きな影響を与えることが明らかになっています。
以上のように、日本におけるPTGの研究は多岐にわたり、自然災害、スポーツ傷害、学生のストレス体験など、さまざまな文脈でのPTGの出現が報告されています。これらの研究は、PTGが個人の成長や社会的適応に寄与する可能性を示すとともに、非適応的な側面にも注意を払う必要があることを示しています。今後の研究では、文化的要因や個人の特性を考慮したPTGの理解が求められるでしょう。
第4章:PTGを促進するための方法

心的外傷後成長(Post-Traumatic Growth, PTG)は、単に時間の経過によって自然に生じるわけではありません。それは、逆境をどのように意味づけ、内面的に処理するかによって大きく左右されます。PTGを促進するには、個人の内面の成長を支える心理的環境や支援が必要であり、研究ではいくつかの方法がその有効性を示しています。
意図的反芻と思考の再構成による成長の促進
PTGにおいて最も重要な要素の一つが「反芻思考(rumination)」です。ただし、反芻には種類があり、ただ繰り返し嫌な記憶を思い出す「侵入的反芻」ではなく、自分の経験を意味づけしようとする「意図的反芻(deliberate rumination)」が鍵を握ります。
TedeschiとCalhounの研究(2004)によれば、PTGが生じるには「意味の再構築」が不可欠であり、その過程で意図的な反芻が重要だとされています。日本の研究でも、意図的反芻を高めるような認知的再構成トレーニングがPTGの促進に寄与することが明らかになっています。たとえば、PTGレベルが高い人は「なぜ自分がこの出来事を経験したのか」「この体験から何を学べるのか」といった問いに取り組む傾向があります。
このような再構成的思考を支える方法としては、以下のようなアプローチがあります:
- ジャーナリング(日記):毎日、自分の感情と体験を紙に書くことで、内省を促進する。米国の研究(Pennebaker, 1997)によると、トラウマ後の体験を記述することで心理的健康が向上する事例が多数報告されています。
- リフレクティブ・ライティング:単なる日記ではなく、自分の経験に対して「何を感じたか」「その出来事の意味は何か」「そこから何を学べたか」を明確に言語化することが、PTGの因子である自己認識や価値観の変容を促進します。
ソーシャルサポートと語りの力
PTGを支えるもう一つの要因が「他者との関係性」です。多くの研究で、社会的支援(ソーシャルサポート)がPTGの形成において決定的な役割を果たすことが示されています。特に、信頼できる人に自分の体験を語ることで、内面の変容が起こりやすくなるのです。
国内外の複数の研究では、PTGが高い人ほど「安心して話せる相手がいる」「理解されていると感じている」と回答しています。たとえば、筑波大学の調査によれば、PTGスコアが高かった大学生グループは、平均して週に3回以上、悩みを共有する会話を持っていたというデータがあります。
さらに、専門的なカウンセリングやグループセラピーも有効です。たとえば、トラウマサバイバーを対象としたグループワークでは、参加者のうち約60%以上がPTGスコアの上昇を経験し、その後の生活満足度が明確に向上したという報告もあります(日本臨床心理学会, 2019年発表)。
語ることには、「感情の再構築」「意味の共有」「自分の体験を新しいストーリーに再編集する」などの効果があり、それがPTGの重要な下地となるのです。
マインドフルネスと自己受容の実践
現代心理学において注目されているもう一つの要素が「マインドフルネス」と「自己受容」です。これらは、苦痛な感情や記憶を否定せず、そのままに受け入れながらも、それらに巻き込まれない態度を育てる訓練です。
ハーバード大学の研究では、週に20分以上のマインドフルネス瞑想を8週間続けた被験者グループにおいて、PTGスコアが平均して18%上昇したというデータが報告されています。また、日本でも、京都大学が行ったPTSD患者へのマインドフルネス介入研究では、PTSD症状の軽減とともに、PTGのスコアが有意に増加したという結果が出ています。
実践方法としては以下が挙げられます:
- 呼吸瞑想:注意を呼吸に向け、浮かんでくる思考に対して評価せず、手放していく。
- ボディスキャン:身体の感覚を丁寧に観察することで、今ここにいる感覚を高める。
- 自己へのコンパッション(慈悲):自分自身を思いやる気持ちを育むことで、逆境を受け止める土壌を作る。
自己受容が高まることで、「過去の自分を許す」「自分の弱さを認める」といった内面的成長が進み、結果としてPTGを強く支えるようになります。
意図的な価値観の見直しとライフゴールの再構築
PTGの特徴として、人生の意味や価値観の再構築が挙げられます。トラウマ体験を乗り越えた人々は、新しい目標や人生の方向性を見出すことが多く、これが結果的にPTGをさらに加速させるというポジティブ・スパイラルを生み出します。
日本の成人を対象とした調査研究(N=526名)では、「人生の目的を再設定した人」と「していない人」とで、PTGの平均スコアに20%以上の差が見られました。この研究は、意味の再発見と価値観の再定義が、成長の体験として定着する鍵であることを示唆しています。
効果的なアプローチとしては以下が挙げられます:
- 価値観リストの作成:自分が人生で大切にしている価値観(家族、創造性、自由、社会貢献など)を洗い出す。
- ライフゴールの言語化:過去の逆境体験を踏まえて「これからどう生きたいか」「どんな人間でありたいか」を言葉にする。
- 意味指向的カウンセリング:フランクルのロゴセラピーに基づいた方法で、自分の苦しみに意味を見出す訓練を行う。
このような意図的な価値観の見直しは、ただの「頑張る」ではなく、深い内省に基づいた「納得して生きる」へと人を導きます。これこそが、真のPTGに至る道筋なのです。
このように、PTGを促進するためには、「内省」「他者とのつながり」「マインドフルな自己観察」「価値観の再構築」といった心理的アプローチが極めて有効です。逆境を経験したからこそ、その体験を意味のあるものに昇華し、自分らしい人生を再構築できるような支援や実践が求められています。PTGは偶然に生じるものではなく、意図的に育むことができる「成長の力」なのです。
▼今回の記事を作成するにあたり、以下のサイト様の記事を参考にしました。

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