人手不足が深刻だと連日報道されているにもかかわらず、「なぜ、こんなに求人が多いのに就職できない人が多いのか?」と疑問に思ったことはありませんか?
コンビニのレジにも、工場のラインにも、オフィスのデスクにも人が足りないという声があふれています。それなのに、就職活動で苦労している人、なかなか再就職先が見つからない中高年の声もまた、後を絶ちません。
一体なぜこんな矛盾が生まれるのでしょうか。
その背景には、単なる「人手不足」では片づけられない、より根深い問題――「スキルのミスマッチ」が潜んでいます。
企業は「欲しい人材がいない」と言い、求職者は「働ける場所がない」と嘆く。このすれ違いが、雇用の現場をじわじわと苦しめているのです。
特にAIやデジタル化が急速に進む現在、企業が求めるのは「今すぐ戦力になる人材」や「ITに強い即戦力」。一方で、これまでアナログな業務で培ったスキルしか持たない多くの労働者は、急に新しいスキルを求められても対応しきれず、取り残されてしまっています。
あなた自身や、あなたの周りにも、「働きたいのに働けない」「これからどうキャリアを描いていけばいいのか分からない」と不安に感じている人はいないでしょうか?
こうした現代の労働市場のズレに目を向け、なぜスキルのギャップが生まれるのか、どうすれば個人も企業も未来に向かって進めるのかを読み解いていきます。
今、必要なのは「人を増やすこと」ではなく、「人を育て直すこと」。
人手不足なのに就職できない現実――なぜ起きる?労働市場に潜む構造的ギャップ

「人手不足」と「就職難」が同時に存在するという矛盾は、日本の労働市場が抱える構造的な問題の象徴です。
現実として、多くの企業が「人が足りない」と嘆きながら、求職者は「就職先が見つからない」と苦しんでいます。
この一見相反する現象の背後には、「労働者のスキル」と「企業が求めるスキル」の間に深いミスマッチが存在しているのです。
「人手不足=何でもいいから人が欲しい」ではない
かつての日本企業では、未経験の若者を採用して一から育てるという「ポテンシャル採用」が一般的でした。しかし現在、多くの企業は即戦力を求めており、教育コストをかけてまで育てようとはしません。
これは特に中小企業やスタートアップ企業で顕著で、資金・時間に余裕がないため、「今すぐ業務を回せる人材」が最優先されます。
一方で、求職者の中には「これまでの経験が通用しない」「希望職種に必要なスキルが不足している」と感じる人が多く、その結果として就職できない現実が生まれています。
労働市場は単に「人数の不足」ではなく、「能力の不足」――もっと言えば「適応力の不足」に直面しているのです。このズレこそが、表面的な求人倍率では見えてこない日本の深層的な労働問題の本質です。
実際の数字が示すミスマッチの実態
厚生労働省の「一般職業紹介状況(令和6年2月分)」によれば、全国の有効求人倍率は1.26倍で、求職者1人に対して1.26件の求人がある状況です。表面上は“売り手市場”のように見えますが、この数字には業種ごとの偏りが大きく潜んでいます。
たとえば、建設業や介護、運輸といった業種では有効求人倍率が3倍以上に達する一方、事務職や一般営業職などの人気職種では0.3~0.5倍と、圧倒的に“買い手市場”となっています。
つまり、「求人はあるが、希望の職種には応募が殺到しており、競争率が高すぎる」のです。
また、独立行政法人労働政策研究・研修機構の2023年調査では、企業が中途採用において「応募者に期待する水準のスキルがない」と回答した割合が61.4%に上り、「応募はあるが、質が見合っていない」という本音が浮き彫りになっています。
このように、労働市場の「需給バランス」は表面上の統計とは異なり、実際には「適した人材がいない」状態であることがはっきりとわかります。
スキルのズレがもたらす“雇えない”問題
企業が求めるスキルの中心は、年々高度化・専門化しています。たとえば、製造業では従来の単純作業ではなく、「機械制御」や「データ分析」などが求められ、ホワイトカラーの世界でも「AI活用」や「業務自動化の設計」といった新たな能力が重要視されています。
しかし、こうしたスキルは一朝一夕で身につくものではありません。特に中高年層にとっては、既存のスキルが時代にそぐわない状態に陥っており、再就職先を見つけるハードル高くなっています。
たとえば、総務省の「労働力調査」によると、45歳以上の求職者の再就職率は20代と比較して約30%低いというデータもあり、年齢とスキルの両面から不利な立場に置かれていることが明らかです。
このように「年齢」と「スキル」が合致しないことで、企業からは敬遠され、求職者からすれば「求人があるのに自分に合った職がない」という悪循環が生じているのです。
変化への適応が求められる時代
もはや「経験があるから雇ってもらえる」という時代ではありません。現代の労働市場においては、変化への適応力=市場価値とも言えるほど、スキルの更新と柔軟性が重視されています。
具体的には、以下のような人材が企業に求められています。
- デジタルツールに習熟している(Office、AI、RPAなど)
- チームで協働しながら課題を解決できる
- 状況に応じて学び直しができる
こうした人材は、業種・年齢問わずどの企業でも必要とされており、「学び直し」や「リスキリング」に取り組む人の市場価値は確実に上昇しています。
言い換えれば、「人手が足りない」と言っている企業が本当に欲しいのは、“使える人材”ではなく“使えるように変化していく人材”なのです。
労働市場のミスマッチを解消するために
このスキルミスマッチを放置したままでは、企業の成長も個人の生活も立ち行かなくなります。
そのためには以下のような多層的な取り組みが必要です。
- 個人:自分の市場価値を把握し、定期的にスキルのアップデートを行う
- 企業:中途採用だけでなく、社内での教育と配置転換によって人材を活かす戦略を取る
- 行政:職業訓練の質と量を拡充し、リスキリング支援の制度を柔軟に提供する
このような構造改革を通じて初めて、「人手不足なのに就職できない」という矛盾が解消され、より持続可能で公平な労働市場が実現されていくのです。
キャリアを自ら設計する時代の到来と求められる意識改革

かつて日本の労働市場では、企業が従業員のキャリアを一貫して管理し、終身雇用や年功序列が一般的でした。しかし、デジタル化やグローバル化の進展により、働き方や雇用形態が多様化し、個人が自らのキャリアを主体的に設計する「キャリアオーナーシップ」の重要性が高まっています。
キャリアオーナーシップとは何か
キャリアオーナーシップとは、個人が自らのキャリアに対して責任を持ち、主体的に意思決定を行う姿勢を指します。これは、企業が提供するキャリアパスに依存するのではなく、自身の価値観や目標に基づいてキャリアを築くことを意味します。
Indeed Japanの調査によれば、過去10年間にわたり将来設計を行ってきた人は、そうでない人に比べて仕事や働き方に対する満足度が3.4倍高いと報告されています 。このデータは、主体的なキャリア形成が個人の満足度や幸福感に直結していることを示しています。
意識改革の必要性
日本の労働市場では、依然として企業主導のキャリア形成が根強く残っています。厚生労働省の報告によると、キャリアコンサルティングを受けた者は、キャリア設計において主体性が高く、幅広い分野でキャリアを形成している傾向があるとされています 。これは、個人が自らのキャリアに対して主体的に関与することの重要性を示しています。
また、パーソル総合研究所の調査では、キャリア自律が高い人ほど、仕事に対する満足度やエンゲージメントが高い傾向にあることが明らかになっています 。これらのデータは、個人が自らのキャリアに責任を持つことが、組織全体の生産性や活力にも寄与することを示唆しています。
企業と個人の協働によるキャリア形成
キャリアオーナーシップの推進には、個人だけでなく企業の支援も不可欠です。企業は、従業員が自らのキャリアを設計できるような環境を整備する必要があります。具体的には、キャリアコンサルティングの提供や、リスキリングの機会の提供、柔軟な働き方の導入などが挙げられます。
また、キャリアオーナーシップを促進するためには、組織文化の変革も重要です。上司や同僚との対話を通じて、個人のキャリア目標を共有し、支援する風土を醸成することが求められます。
総じて、現代の労働市場において、キャリアオーナーシップは個人の成長だけでなく、組織の発展にも寄与する重要な要素です。個人が自らのキャリアに責任を持ち、主体的に行動することで、変化の激しい社会に柔軟に対応し、持続的な成長を実現することが可能となります。
企業と個人が協働してキャリア形成を支援し合うことで、より健全で活力ある労働市場を築くことができるでしょう。
企業の責任と社会制度の再構築が問われる時代へ

日本の労働市場は、少子高齢化やデジタル化の進展、グローバル競争の激化など、複合的な要因によって急速な変化を遂げています。これらの変化に対応するためには、企業の役割の再定義と社会制度の抜本的な見直しが求められています。特に、企業が人材育成や働き方改革に積極的に取り組むこと、そして政府が柔軟で包括的な制度を整備することが不可欠です。
労働市場の現状と課題
日本の労働市場では、深刻な人手不足が続いています。2024年には、人手不足を原因とする企業の倒産件数が前年比32%増の342件に達し、過去最多を記録しました。 特に中小企業や非製造業での影響が大きく、労働力の確保が経営の持続性に直結する問題となっています。
このような状況下で、企業は新卒採用の強化や定年延長、再雇用制度の導入など、さまざまな対策を講じています。しかし、これらの対策だけでは根本的な解決には至らず、労働市場全体の構造的な改革が必要とされています。
企業の責任と取り組み
企業は、従業員のスキル向上やキャリア形成を支援する責任を担っています。特に、デジタル技術の進展に伴い、従業員が新たなスキルを習得し、変化する業務に対応できるような環境を整備することが求められています。
政府も、職務ごとに必要なスキルを明確化し、労働者が自らの意思でリスキリングを行える制度への移行を推進しています。 これにより、労働者が社内外での労働移動を円滑に行えるようになり、企業の競争力強化にもつながります。
また、企業は「ジョブ型」人事制度の導入を進めています。これは、従業員を職務に基づいて管理する制度であり、従来の「メンバーシップ型」からの移行が進められています。政府も2024年8月にジョブ型人事指針を発表し、企業の取り組みを後押ししています。
社会制度の再構築
労働市場の変化に対応するためには、社会制度の再構築が不可欠です。特に、非正規雇用の増加や賃金格差の拡大、長時間労働の是正など、従来の制度では対応しきれない課題が顕在化しています。
政府は、「三位一体の労働市場改革」を掲げ、雇用制度、教育訓練制度、社会保障制度の一体的な改革を進めています。これにより、労働者が安心して働き続けられる環境を整備し、企業の生産性向上を支援することを目指しています。
また、労働市場の両極化が進行しており、高スキル職と低スキル職の就業者が増加する一方で、中スキル職の減少が顕著です。このような状況に対応するためには、教育水準の向上や地域間格差の是正など、包括的な政策対応が求められています。
総じて、日本の労働市場が直面する課題は複雑で多岐にわたりますが、企業と政府が連携し、積極的に改革を進めることで、持続可能な労働環境の構築が可能となります。企業は従業員のスキル向上や働き方改革に取り組み、政府は柔軟で包括的な制度を整備することで、労働市場の健全な発展を支えることが求められています。これにより、労働者が安心して働き続けられる社会の実現が期待されます。
リスキリングの実践がキャリア再構築のカギを握る――学び直しは“自己防衛”であり“成長戦略”

「働きながら学び直す」という言葉は、かつては限られた意欲的なビジネスパーソンのものとされていました。
しかし今、リスキリング(再教育・再訓練)は、すべての働く人にとって“生き残るための必須条件”となっています。
労働市場の変化が急激に進む中、これまで通用していたスキルや知識だけでは、変化に対応しきれない現実が目前に迫っているからです。
とくに日本社会では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やAI・自動化の普及が進む中で、従来の仕事が姿を変える、あるいは消滅するリスクが高まっています。この環境下でキャリアを築き直すには、「持っているスキルを強化する」「新しい領域を学び直す」ことが避けられません。
データが示す“スキルの陳腐化”とリスキリングの必要性
まず押さえておくべきは、「現在の仕事が未来にも存在するとは限らない」という事実です。
経済産業省の「未来人材ビジョン(2022年)」によれば、2030年までに日本の就業者の約49%が、現在とは異なる業務スキルを必要とする職に就くと推計されています。
また、野村総合研究所がオックスフォード大学と共同で発表したレポートでは、日本の労働人口の49%が、AIやロボットに代替される可能性が高い職業に就いているとされています。つまり、現状維持を選んだ場合、多くの人が将来的に“職を失う側”になるという現実があるのです。
このような環境において、リスキリングは「選択肢の一つ」ではなく、「リスクを避けるための自己防衛手段」と言えるでしょう。
企業が求めるスキルは、かつてと何が違うのか
これまでの日本企業では「勤続年数」「現場経験」「協調性」など、暗黙的な能力が評価されてきました。
しかし近年の人材要件は明確に変化しており、以下のようなスキルが求められる傾向にあります。
- デジタルスキル(例:データ分析、AI・RPAの活用、業務の自動化)
- 自律的に学び続ける力(例:オンライン講座、資格取得)
- 複数スキルの組み合わせ(ハイブリッド人材)(例:マーケティング×IT、事務×データ管理)
厚生労働省が行った「働き方の未来に関する調査(2023年)」でも、企業が「今後最も必要とするスキル」としてデジタルスキル(78.4%)、「問題解決能力(67.2%)」「新しい知識の習得への意欲(60.5%)」が上位に挙げられています。
つまり、知識やスキルの“更新頻度”こそが、新たなキャリア形成における競争力の源泉となっているのです。
リスキリングの効果は実証されているのか?
リスキリングが実際に成果を出している例は数多く存在します。たとえば、経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座(Reスキル講座)」に参加した
ビジネスパーソンのうち、約67%が半年以内に職務内容の変化または職種転換を実現しているというデータがあります。
さらに、2024年に内閣官房が発表した「個人の学び直し支援調査」では、
リスキリングを実施した人のうちおよそ52%が給与の上昇やキャリアアップを実感したと回答しています。
つまり、学び直しは“やれば報われる”投資なのです。
また、企業側もリスキリングの重要性を強く認識しています。
日本経済団体連合会の調査によると、約73%の企業が「社内における再教育・再配置が経営の最重要課題」と位置づけており、
今後は人材の“採用”よりも“育成”に舵を切る企業が増えると見込まれています。
リスキリングが個人に与える心理的インパクト
リスキリングの効果は、単なる「キャリアアップ」だけにとどまりません。
むしろそれ以上に重要なのは、「自己肯定感の向上」や「将来に対する安心感」といった、
心理的なメリットです。
中高年層の労働者や再就職を目指す女性にとって、
「今さら学んでも無意味ではないか」「遅すぎるのではないか」といった不安がつきまとうことは多々あります。
しかし実際には、30代後半から50代にかけて学び直しを始めた人の多くが、
「仕事に対する意欲が戻った」「自分に再び自信が持てるようになった」と語っています。
このような心理的変化は、単なる数字には表れにくいものですが、キャリアを再構築する上では大きなエネルギーとなります。
そしてこれは、若年層にも言えることです。特に20代~30代前半では、「これから何を学ぶべきか」「どんな職に就くべきか」に悩む人が多く、明確なリスキリング戦略が将来の迷走を防ぐ羅針盤にもなり得ます。
今、行動することの意味――リスキリングは“時間を味方にする戦略”
リスキリングには時間がかかります。知識を習得し、それを実務に転換するには数ヶ月から年単位の努力が必要です。だからこそ、「危機が目の前にきてから始める」のではなく、今すぐに始めることが肝心なのです。
リクルートワークス研究所によれば、仕事をしながらリスキリングを継続できている人の特徴として、「明確な目標を持っている」「学びを業務に生かしている」「定期的にフィードバックを得ている」などが挙げられています。
これは、リスキリングが単なる勉強ではなく、「日々の働き方を変えるツール」であることを示しています。
日本政府も、こうした流れを後押しすべく、2023年度から「人への投資」を重点施策とし、社会人向けのリスキリング支援に年間1,000億円以上を投じています。
このような制度や支援を上手く活用し、自らのキャリアを主体的に設計することこそが、これからの時代を生き抜く最大の武器となるのです。
▼今回の記事を作成するにあたり、以下のサイト様の記事を参考にしました。

[PDF] 労働市場の現状と 人材開発の課題 – 厚生労働省

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