口臭は、自分では気づきにくいため、他人にどう思われているかとても気になりますね。口臭の主な原因となる物質が「メチルメルカプタン(CH3SH)」です。この物質は、歯周病の人から多く発生することが知られています。
歯周病は、年齢とともに増えていきます。45歳以上の人の半数以上が歯周病にかかっているといわれています。また、全年齢層の約4割の人に歯ぐきの出血が見られています。
口の中にいる細菌がどのようにしてこのメチルメルカプタン(CH3SH)を作り出しているのかを調べた研究がありました。その結果、Fusobacterium nucleatum(以下、F. ヌクレアタム細菌)という細菌が、メチオニンという物質を代謝することで、とても多くのメチルメルカプタン(CH3SH)を作り出していることがわかりました。
さらに、Streptococcus gordonii(以下、S. ゴルドニ細菌)という別の細菌と一緒に培養すると、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生量が約3倍にも増えることが確認されました。この3倍の増加は、S. ゴルドニ細菌がF. ヌクレアタム細菌に大きな影響を与えていることを示しています。
この研究では、Fusobacterium nucleatum(F. ヌクレアタム細菌)とStreptococcus gordonii(S. ゴルドニ細菌)という2種類の細菌が共生することで、口臭の原因物質であるメチルメルカプタン(CH3SH)産生量が約3倍に増加することが発見されました。S. ゴルドニ細菌が排出するオルニチンがF. ヌクレアタム細菌のポリアミン合成を促進し、これがメチオニン代謝経路を活性化させることで、CH3SHの産生が増加するというメカニズムが明らかになりました。
口腔細菌間ネットワークによる口臭成分メチルメルカプタンの増強促進機構の解明
- Fusobacterium nucleatum (フソバクテリウム・ヌクレアタム)とStreptococcus gordonii (ストレプトコッカス・ゴルドニ)
- F. ヌクレアタム細菌にオルニチンが供給されてメチルメルカプタン産生が活発化
- さらにポリアミン類がメチルメルカプタン(CH3SH)産生を促進
- メチオニン代謝関連遺伝子の高まりが、結果として約3倍に増加させる
- F. ヌクレアタム細菌がメチルメルカプタン(CH3SH)を産生促進させるS. ゴルドニ細菌以外の要因
- S. ゴルドニ細菌によるF. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生量を増加させない方法
- メチルメルカプタン(CH3SH)産生の増加が口腔内の微生物バランスを崩す
- まとめ
Fusobacterium nucleatum (フソバクテリウム・ヌクレアタム)とStreptococcus gordonii (ストレプトコッカス・ゴルドニ)
Fusobacterium nucleatum (F. ヌクレアタム細菌)【フゾバクテリウム】について:
- 口腔内の主要な嫌気性細菌の1つ
- 歯周病の進行に関与していると考えられている
- メチオニンを代謝してメチルメルカプタン(CH3SH)を大量に産生する
- メチルメルカプタン(CH3SH)は口臭の主要な原因物質
Streptococcus gordonii (S. ゴルドニ細菌)【ストレプトコッカス・ゴルドニ】について:
- 口腔内の初期定着菌の1つ
- F. ヌクレアタム細菌と共存すると、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生が約3倍に増加する
- つまり、S. ゴルドニ細菌はF. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生を大きく促進する
このように、F. ヌクレアタム細菌とS. ゴルドニ細菌は口腔内の細菌叢の中で重要な役割を果たしており、特にF. ヌクレアタム細菌はメチルメルカプタン(CH3SH)産生を介して口臭の主要な原因となっています。
F. ヌクレアタム細菌にオルニチンが供給されてメチルメルカプタン産生が活発化
F. ヌクレアタム細菌は、口の中にいる大切な細菌の1つです。この細菌には、口臭の原因となるメチルメルカプタン(CH3SH)という物質を作り出す能力があります。メチルメルカプタン(CH3SH)は、とても強い臭いを放ち、口臭の主な原因となっています。
オルニチンというものが、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生を促進することがわかっています。F. ヌクレアタム細菌にS. ゴルドニ細菌からオルニチンが供給されると、メチオニンを代謝する活動が活発になり、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えるのです。
研究の結果、オルニチンを加えた培地でF. ヌクレアタム細菌を育てると、通常の2倍以上もメチルメルカプタン(CH3SH)が作られることが確認されています。このプロセスは、オルニチンがF. ヌクレアタム細菌のメチオニン代謝に関係する遺伝子の活動を高めることで進行します。つまり、メチオニンがメチルメルカプタン(CH3SH)に変換される過程が早くなり、結果としてメチルメルカプタン(CH3SH)の産生量が増えるのです。
オルニチンとは
オルニチンは、アミノ酸の一種です。
特徴は以下の通りです:
- アミノ酸の一つで、体内で合成されます
- タンパク質の構成成分ではありませんが、様々な生理機能に関与しています
- 尿素サイクルの中間体として重要な役割を果たします
- 細胞の成長や分化、免疫機能などに関与していると考えられています
- 細菌の代謝にも影響を及ぼし、特にF. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生を促進する
つまり、オルニチンは人体内だけでなく、口腔内の細菌代謝にも関与しており、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生を高めることで、口臭の増加に関係していると考えられているのです。
さらにポリアミン類がメチルメルカプタン(CH3SH)産生を促進
ポリアミンは、細胞の成長や働きに重要な化合物の集まりです。この化合物は、口の中にいる細菌の代謝にも深くかかわっています。ポリアミンには、プトレシン、スペルミジン、スペルミンなどがあり、これらの物質がF. ヌクレアタム細菌というバクテリアのメチルメルカプタン(CH3SH)の産生を促進することがわかっています。
特に、ポリアミンがメチオニンの代謝を活発にすることで、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えるというメカニズムが考えられています。
実験では、ポリアミンを加えた培地でF. ヌクレアタム細菌を育てると、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生量が1.5倍から2倍に増えることが確認されています。このことから、ポリアミンがF. ヌクレアタム細菌のメチオニン代謝経路を調整する重要な物質であることがわかります。ポリアミンは、メチオニン代謝に関わる酵素の働きを活発にすることで、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生を促進すると考えられているのです。
メチオニン代謝関連遺伝子の高まりが、結果として約3倍に増加させる
F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)の産生には、メチオニンの代謝に関係する遺伝子の活動が大切です。メチオニンは、メチルメルカプタン(CH3SH)の元となる物質で、その代謝過程でメチルメルカプタン(CH3SH)が作られます。
研究の結果、S. ゴルドニ細菌と一緒に培養すると、F. ヌクレアタム細菌のメチオニン代謝に関係する遺伝子の活動が高まることがわかりました。
この遺伝子の活動が高まることで、メチオニンの代謝が活発になり、結果としてメチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えるのです。メチオニンの代謝に関わる主な酵素の遺伝子が活性化されるので、メチオニンがより効率的にメチルメルカプタン(CH3SH)に変わるようになります。
この過程によって、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生量が約3倍にも増えることが実験で確認されています。
F. ヌクレアタム細菌がメチルメルカプタン(CH3SH)を産生促進させるS. ゴルドニ細菌以外の要因
S. ゴルドニ細菌と一緒に培養すると、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)の産生が大きく増えることがわかっています。しかし、それ以外にもメチルメルカプタン(CH3SH)産生を促進する要因がないかどうかを調べることも大切です。
口の中にいる他の細菌との相互作用や、特定の栄養分の存在、さらには環境条件の変化などが、メチルメルカプタン(CH3SH)産生に影響を及ぼしている可能性があります。
他の細菌との相互作用について見てみると、Porphyromonas gingivalis(P. gingivalis)と一緒に培養すると、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生がさらに高まることが報告されています。
また、ビタミンKや鉄分といった特定の栄養分が存在すると、F. ヌクレアタム細菌の代謝活動が活発になり、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えることも示されています。
さらに、酸素の量が少なくなったり、pH(酸性度)が変化したりすると、メチルメルカプタン(CH3SH)産生にも影響が出る可能性について、研究が進められています。
このように、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生には、さまざまな要因が関係している可能性があるのです。
S. ゴルドニ細菌によるF. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生量を増加させない方法
S. ゴルドニ細菌とF. ヌクレアタム細菌が一緒にいると、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えてしまいます。でも、この二つの細菌の関係をうまくコントロールすれば、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生を抑えることができるかもしれません。
抗菌剤の使用
特別な抗菌剤を使って、S. ゴルドニ細菌の増え方を抑える方法があります。クロルヘキシジンという抗菌剤は、S. ゴルドニ細菌の増殖を効果的に抑えることができ、F. ヌクレアタム細菌とS. ゴルドニ細菌の関係が弱まり、結果としてメチルメルカプタン(CH3SH)の産生を抑えられる可能性があります。
※クロルヘキシジンについて知りたい方は、ぜひ文献を調べてください。自分自身が使ったことは無いですし、はっきりと確認できている情報では無いので、使用をお薦めすることはいたしません。
クロルヘキシジンを希望される場合は、まずは信頼できる医療機関を受診し、専門の医師と十分に相談することが重要です。また、クロルヘキシジンの効果や副作用についても詳しく説明を受けましょう。自己判断での使用は避け、必ず医師の指導のもとで治療を進めるようにしてください。あなたの健康と安全を第一に考えた上での使用が大切です。
プロバイオティクスの導入
口の中のバランスを保つために、良い細菌(プロバイオティク)を摂取することも効果的と思います。LactobacillusやBifidobacteriumというプロバイオティクスは、S. ゴルドニ細菌と競争するので、S. ゴルドニ細菌の増え方を抑えることができます。そうすれば、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生も抑えられるかもしれません。
栄養管理
オルニチンやポリアミンといった栄養分の量を調整することも大切です。これらの栄養分が多い食べ物を避けることで、間接的にF. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生を抑えられるかもしれません。
オルニチンが多い食べ物
- しじみ: オルニチンが豊富です。
- ぶなしめじ: しじみよりも多くのオルニチンを含んでいると言われています。
- キハダマグロ: 刺身やムニエルなどで食べられています。
- チーズ: スライスチーズやピザ用チーズなど、様々な料理に使われています。
- ヒラメ: 刺身や焼き魚として食べられています。
ポリアミンが多い食べ物
- 米胚芽や米ぬか: 穀物の一部で、健康に良い成分もたくさん含まれています。
- 大豆: 豆腐や納豆、豆乳などで摂取しています。
- しめじ: オルニチンと同様に、ポリアミンも豊富です。
- 牡蠣: 栄養価が高く、ホイル焼きなどで食べられています。
- ピーマン: サラダや炒め物に使われやすい野菜です。
メチルメルカプタン(CH3SH)産生の増加が口腔内の微生物バランスを崩す
メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えると、主に口臭が悪化しますが、それ以外にも様々な影響があります。メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えると、口の中にいる細菌たちの関係にも変化が起きるのです。
口臭の悪化
まず一番分かりやすいのは、口臭が強くなることです。メチルメルカプタン(CH3SH)はとても臭いの強い化合物なので、その量が増えると、口臭がひどくなります。
強い口臭は、人との会話でも大きな問題となるでしょう。口臭が強いと、自分への自信や他人とのコミュニケーションにも影響が出て、生活の質が下がってしまうかもしれません。
口腔内微生物のバランスへの影響
メチルメルカプタン(CH3SH)の量が増えると、口の中にいる細菌たちの関係が変わる可能性があります。メチルメルカプタン(CH3SH)には、ある種の細菌を抑える効果があることがわかっています。そのため、特定の細菌が優勢になり、細菌のバランスが崩れてしまう可能性があります。細菌のバランスが乱れると、歯周病やその他の口の病気のリスクが高くなることがあります。
口腔内の病気のリスクが上昇
メチルメルカプタン(CH3SH)は、歯周病の原因菌であるPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)などの悪い細菌の増殖を助長することがわかっています。そのため、メチルメルカプタン(CH3SH)の量が増えると、歯周病の進行が早まり、歯肉炎や歯槽膿漏などの口の病気のリスクが高くなります。歯周病は全身の健康にも影響を与え、心臓病や糖尿病のリスクを高めることがあるので、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生を抑えることは重要なのです。
口腔内の免疫応答が低下する可能性
メチルメルカプタン(CH3SH)は、口腔内のマクロファージや免疫細胞の働きを抑えてしまう影響があることが分かっています。そのため、メチルメルカプタン(CH3SH)の量が増えると、口の中の免疫機能が低下し、感染症や炎症性の病気のリスクが高くなる可能性があります。
栄養素の利用効率が変化
メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えると、F. ヌクレアタム細菌自体の代謝にも影響が出る可能性があります。メチルメルカプタン(CH3SH)は代謝の副産物なので、その量が増えると、F. ヌクレアタム細菌のエネルギー代謝や栄養の利用効率が変わる可能性があります。そうすると、F. ヌクレアタム細菌の増え方や他の細菌との競争力が変わり、口の中の細菌の全体的なバランスにも影響が出るかもしれません。
まとめ
S. ゴルドニ細菌とF. ヌクレアタム細菌が一緒にいると、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が促進されます。この仕組みには、オルニチンやポリアミン、メチオニンの代謝に関わる遺伝子の活動が深くかかわっています。これらの要素が複雑に関係し合うことで、メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が高まり、口臭や口の中の細菌のバランスに影響を及ぼすのです。
S. ゴルドニ細菌以外にも、メチルメルカプタン(CH3SH)産生を促進する要因はありますが、これらを理解することで、より効果的な口臭対策が可能になるでしょう。対策としては、抗菌剤の使用やプロバイオティクスの導入、栄養管理などが考えられます。これらの方法を使えば、F. ヌクレアタム細菌のメチルメルカプタン(CH3SH)産生を抑え、口臭の改善や口の健康の維持につなげることができると思います。
メチルメルカプタン(CH3SH)の産生が増えると、単に口臭の問題だけでなく、口の中の細菌のバランスや全身の健康にも影響が出る可能性があります。ですので、包括的な対策を立てることが大切だと思います。
口の中の細菌のバランスを保つことは、健康を維持するために非常に重要です。メチルメルカプタン(CH3SH)の産生を抑えることで、この細菌のバランスを保つことができ、様々な口の病気のリスクを下げられるかもしれません。