ネコってどんな動物だと思いますか?
かわいらしい仕草や愛らしい表情で人々を魅了してきたネコですが、よく知らないことがたくさんあります。
ネコは昔から人間の生活に寄り添ってきた動物ですね。でも、なぜネコはこんなにも人々に愛されるようになったのでしょうか。ネコの性格や行動の特徴は、一体どのように形成されてきたのでしょうか。
今回見つけた研究では、ネコの性格特性に着目しました。ネコはイヌなどの家畜動物とは少し違って、人間に飼われるようになってからも、あまり人工的な改良を受けていないのが特徴です。つまり、ネコの性格は自然な進化の過程で形成されてきたと考えられるのです。
そこで、研究ではネコの性格特性を遺伝子と行動の両面から解明することにしました。まずは、ネコの性格を決める遺伝子を見つけ出し、それがどのように機能しているのかを調べてみたそうです。
そして、ネコが幼少期に経験したことが、性格にどのように影響しているのかも探っていきたいと思います。
この研究は、ネコがどのようにしてヒトの伴侶動物として進化してきたのかを、遺伝子と行動の両面から解明することを目的としています。
ネコの性格特性を規定する遺伝子をゲノムワイドに探索し、祖先種のゲノムと比較することで、ネコがどのようにして現在の性格を持つようになったのかを明らかにします。また、ネコがヒトの社会的シグナルにどの程度敏感であるかを調べるために、行動実験を行い、ネコの社会的学習や試行錯誤学習の傾向を調査しています。
この研究は、ネコの性格特性に関連するいくつかの候補遺伝子を特定し、幼少期の経験が現在の性格特性にどのように影響しているのかを明らかにすることに成功しています。これにより、ネコがヒトに愛される理由を科学的に解明し、ネコとヒトの関係性をより深く理解するための重要な一歩となっています。
ネコから探る、伴侶動物における性格特性の進化
ネコの性格形成には、幼少期の経験が大きく影響する
ネコの性格は、特に生後2か月間の「社会化期」に大きな影響を受けます。この時期に、ネコがどのような環境で育てられるかが、その後の性格と行動に深く関わってくるのです。
1997年にイギリスの研究者らが行った研究では、母猫と強い絆を持った子猫は、成猫になってからも人間や他の動物に対して柔軟で社交的な性格を示すことがわかりました。一方、母猫から早期に離された子猫は、成猫になった時にストレスや不安を感じやすく、警戒心が強くなる傾向があるそうです。特に生後8週間以降の環境が、ネコの長期的な性格形成に大きな影響を与えるとされています。
また、2014年にアメリカのコーネル大学が行った研究では、自由に遊び回り、さまざまな刺激に触れられる環境で育った子猫は、静かな環境で育った子猫に比べて、遊び心や社会性が優れ、ストレス耐性も高いことが明らかになりました。つまり、ネコの幼少期における経験の豊かさが、その後の行動や性格の形成に大きな役割を果たしているのです。
このように、ネコの性格は、生後2か月間の「社会化期」に大きな影響を受けます。母猫との絆の強さや、遊びや探索の機会の多さなど、この時期の環境が、ネコの一生にわたる性格と行動を決定づけるのだと言えるでしょう。
ネコにとって激しいストレスでは負の性格になるが、軽度であれば成長の糧となる可能性がある
ネコにとって、ストレスは複雑な影響を及ぼします。重度のストレスは性格に悪影響を及ぼしますが、適度なストレスは成長の糧にもなり得るのです。
まず、ネコは本来非常に敏感でストレスに弱い動物です。1975年のドイツの研究では、生後4週間の子猫に過度のストレスを与えると、成長後に不安や攻撃性が高まり、人間との関係が築きづらくなることが確認されました。また、2016年のフランスの調査では、幼少期に不安定な環境で育った85%のネコが、成猫になって行動問題を示すことがわかりました。長期的なストレスは、免疫力の低下や肥満、心臓疾患などの健康問題にもつながる可能性があります。
一方で、適度なストレスはネコの成長にプラスの影響を及ぼす可能性もあります。2011年のアメリカの研究では、新しい環境への探検やおもちゃとの遭遇など、軽度のストレス体験が、ネコの自己調整能力や適応力を高めることが示されています。つまり、過度なストレスは避けるべきですが、適度なストレスは、ネコの精神的な発展を促す可能性があるのです。
このように、ネコにとってストレスは複雑な影響を持ちます。生後早期の過度なストレスは避けるべきですが、適度な刺激は成長の糧となる可能性があるのです。ネコの健やかな成長のためには、このバランスを理解し、適切な環境づくりが重要だと言えるでしょう。
ネコの社会性とコミュニケーション能力も幼少期に発達
ネコの社会性やコミュニケーション能力は、幼少期の経験によって大きく育まれます。
特に、兄弟や母猫との触れ合いは、ネコが自己抑制や社会的ルールを学ぶ重要な機会となります。1992年のカナダの研究では、兄弟と遊ぶ機会を持った子猫は、独立して育てられた子猫に比べて攻撃性が30%低く、社会的な接触を望む頻度が40%高いことが確認されています。つまり、兄弟との遊びを通して、ネコは互いの力加減や他者の反応を学んでいくのです。
また、人間との早期接触も、ネコのコミュニケーション能力を高めます。人間との信頼関係を築きやすく、飼い主とのコミュニケーションにも積極的になる傾向があります。
さらに、2019年の日本の調査では、成長期に多様な経験をしたネコは、他の動物との共存が可能であることが示されています。約70%のネコが、他の動物に対して友好的な行動を示したのです。幼少期の多様な相互作用が、ネコの社会的な柔軟性と適応力を高めているのだと考えられます。
つまり、ネコの社会性やコミュニケーション能力は、兄弟や母猫、そして人間との触れ合いを通して、幼少期に大きく育まれていくのです。この時期の経験が、ネコの生涯にわたる社会性を形成するのだと言えるでしょう。
遺伝的素質は、適切な環境によって整えることができる
ネコの性格は、遺伝的素質と環境要因の両方が影響を及ぼし合って決まります。
まず、遺伝的要因とは、親から受け継がれる性格的特性や行動傾向のことです。例えば、「内向的」や「外向的」といった性格特性は、ある程度遺伝的に決まっている可能性があります。2010年のスウェーデンの研究では、特定のセロトニン輸送遺伝子(5-HTT)がネコの感情やストレス反応に関係していることが分かりました。この遺伝子を持つネコは、環境の変化に敏感でストレスを感じやすい傾向にあります。
しかし、この遺伝的素質があっても、適切な環境が整えられれば、その影響は軽減される可能性があります。例えば、内向的な性格のネコでも、幼少期に適切な社会化の機会を得られれば、他の動物や人間に対してより柔軟な性格を持つことができるのです。2020年のイタリアの研究では、遺伝的に警戒心の強いネコでも、安全で安定した飼育環境であれば、成長後に社交性が高まり、他のネコや人間との交流を好むようになることが報告されています。
つまり、ネコの性格は、遺伝的な素質と、幼少期の環境要因が複雑に関係し合って形成されるのだと言えるでしょう。適切な環境が整えば、遺伝的な傾向を変化させることも可能なのです。
まとめ: 幼少期の経験が持つ、その後の性格形成における意味
ネコの性格形成において、幼少期の経験は非常に重要な役割を果たします。
まず、母猫や兄弟、飼い主との相互作用を通して、ネコの社会性が育まれ、情動調整や適応能力が向上します。特に、生後最初の2か月間の経験が、その後の性格や行動に大きな影響を及ぼすことが分かっています。
豊かな社会的刺激と安定した環境で育ったネコは、成長後も柔軟で穏やかな性格を持ちやすい一方で、孤立した環境や不安定な状況で育ったネコは、ストレスに弱く、攻撃的または内向的な性格になる傾向があります。つまり、幼少期の経験が、その後の性格形成に大きな意味を持つのです。
また、遺伝的素質と環境要因の相互作用も重要です。遺伝的に不安感や警戒心の強いネコでも、適切な育成環境が整えば、そのネガティブな影響は軽減され、社交性が高まることが確認されています。一方で、遺伝的に柔軟な性格のネコでも、幼少期にストレスの多い環境に置かれると、後の行動に悪影響が残ることがあります。
以上のことから、ネコの健やかな成長には、幼少期の社会化と環境づくりが非常に重要だと言えます。安定した育成環境を整え、ストレスを最小限に抑えることで、成猫になった時の健康で幸せな生活につながるのです。飼い主やブリーダーは、子猫の発達段階における細やかなケアを心がける必要があるのです。
