どれだけ繰り返し「報告して」と伝えても、一向に改善されない――そんな社員に、心当たりはありませんか?
上司やリーダーであれば、一度は「なぜあの人は報連相ができないのか?」と悩んだ経験があるでしょう。進捗がわからない、トラブルを事後報告される、確認せずに判断して失敗する……。
そのたびに、「どうして早く言ってくれなかったの?」と後悔と苛立ちが募る。これらは、どこの職場にも起こりうるごく一般的な課題です。
しかし、そんな“報連相しない社員”に対して、「報告しろ」「ちゃんと相談しろ」と何度注意しても、状況が変わらないとしたら――いったい、どこに問題があるのでしょうか?
実は、多くの現場で見落とされている本質があります。それは、「なぜそれをやらなければならないのか?」という“意味”や“目的”が、本人に伝わっていないことです。
人は、意味が理解できないルールには心から従えません。ましてや、自分に不利益をもたらす可能性を感じたら、無意識に避けるようになります。
あなたの職場では、「報連相が必要な理由」をきちんと共有できていますか?
それとも、ただ「決まりだから」「上司が困るから」という言葉で終わっていませんか?
報連相ができない社員にどう向き合えばいいのか、その根本原因を“ルール”ではなく“納得感”の視点から解き明かしていきます。
そして、「なぜそれをしなければならないのか」を共有することこそが、行動変容の最初の一歩であることを解説します。
叱る前に、伝えるべきは“理由”だった──納得がなければ行動は変わらない

「なんで報告しないんだ」「何度言ったらわかるんだ」──
こうした叱責は、多くの管理職が口にしがちな反応です。しかし、社員の行動が変わらない本当の原因は、「言っていないから」ではなく、「伝わっていないから」なのです。そして、その“伝わらなさ”の本質は、「なぜそれをしなければならないのか」という理由=目的の共有不足にあります。
「叱る」は一見、手っ取り早いコミュニケーションのように見えます。しかし、叱責には2つの重大な問題があります。
- 部下が「自分は否定された」と感じるだけで、行動の改善にはつながらない
- 「何をどうすればいいか」が示されず、不安や萎縮を生むだけになる
実際、組織行動学や人材育成の分野では、行動変容を促す最も効果的な方法は“内発的動機づけ”であるとされています。
内発的動機づけとは、「自分で納得し、自らの意思で動こうとする力」のこと。つまり、他人に言われたからではなく、“意味がわかったから動く”という状態です。
行動変容には「意味づけ」が必須──数字が示す納得の重要性
2022年に株式会社リンクアンドモチベーションが実施した調査によると、社員が上司の指示に従わない最大の理由は「指示の意味がわからないから」がトップで、全体の45.3%を占めていました(※)。
これは、「忙しいから」「反抗心があるから」などの理由を大きく上回る結果です。
また、心理的安全性の高い組織では、報連相の実施率が約2.7倍に上昇するというデータもあります(Google社の社内調査「プロジェクト・アリストテレス」より)。
これは、「何を伝えても受け入れてもらえる」「自分の意見が意味あるものだと感じられる」という信頼感が、社員の行動を後押しすることを示しています。
つまり、「報連相は大事だからやれ」では動かず、「報連相はこういう理由で必要なんだ」と説明されたときに初めて、人は納得して動くのです。
目的の共有こそが、組織の“不公平”を是正する鍵
組織的不公平感──それは、「ある人には求められないことが、他の人には強く求められる」「ルールが一貫していない」「努力が正しく評価されない」といった職場の“曖昧な不条理”のことです。
報連相の実施が不公平に感じられるのも、目的が不明確なままルールだけが課されることに起因しています。
目的を共有せずルールだけを押しつけると、社員は次のように感じます。
- 「結局、報告しても意味ないじゃん」
- 「上司が楽をしたいだけでしょ?」
- 「相談したのに、面倒くさそうな顔された」
これらはすべて、「意味が見えないルールは、不公平に感じる」という心理の現れです。逆に、ルールの意味と目的が明確に共有されると、そのルールは“納得できるもの”になり、公平に受け止められるようになります。
上司の一言が行動を変える:「なぜそれが必要なのか」を伝えよ
最後に、部下が動き出すきっかけとなるのは、たった一言の「伝え方」の違いです。
- ×「ちゃんと報告しろよ」
- ○「君の報告があると、早めに対応できて、全体が助かるからお願いしたい」
この「君の報告が、みんなを助ける」というメッセージには、報連相の目的(情報共有による組織全体の最適化)が明確に込められています。この目的が理解されれば、社員は「やらされている」のではなく、「自分が価値を生んでいる」と実感できます。
そして、この実感こそが、報連相をルールから文化へ変える土台となるのです。
「報告しなさい」と叱る前に、なぜそれが必要なのかを一緒に考え、共有すること。それこそが、行動を促し、不公平を是正し、組織に“納得”という安心感を育てる第一歩です。
上司のその一言が、報連相の文化を根づかせる最も強い推進力になるのです。
※参考:株式会社リンクアンドモチベーション「指示の受け止め方に関する意識調査」2022年発表
※参考:Google社社内調査「プロジェクト・アリストテレス」より、心理的安全性に関する効果測定結果
報連相を“ルール”から“文化”へ定着させるには:表面的な徹底ではなく「仕組み」と「意識改革」の両立を

報連相(報告・連絡・相談)は、あらゆる業種・職種で基本行動として教え込まれます。
しかし、「報連相をルールにしたはずなのに、なぜ定着しないのか?」という声は、管理職・人事担当者の間で後を絶ちません。その原因は、“ルールとして存在していても、文化として根づいていない”という点にあります。
文化とは、「誰に言われずとも、自律的に継続される行動様式」です。
つまり、報連相を単なる業務マナーとして徹底するだけでは不十分で、社員が自分の意思で実践したくなるような仕組みや心理的環境が整ってはじめて、報連相は「文化」として定着します。
ここでは、報連相をルールから文化へ昇華させるために不可欠な3つのポイントを解説します。
1. 形式的ではなく「双方向の報連相」を構築する
多くの組織では、「部下から上司への一方通行の報連相」だけが求められがちです。しかし、これが報連相の定着を妨げる最大の要因です。社員は「報連相とは“監視”のための手段だ」と感じてしまうからです。
実際、報連相が定着している企業の特徴は、双方向の報連相(上司もまた部下に進捗や判断を共有する姿勢)が徹底されている点にあります。
たとえば、あるIT企業では「上司も週報を出す」運用を始めたところ、部下の週報提出率が約1.8倍に向上しました(同社社内調査・2023年)。これは、「上司もやっている」という公平感と、「自分の報告にも価値がある」という納得感が影響しています。
文化化のためには、「報告させる」のではなく、「情報を分かち合う」という双方向の前提を作る必要があります。
2. 「失敗報告に価値がある」という意識の共有が定着のカギ
多くの社員が報連相をためらう理由として、「叱られるのが怖い」「責任を問われるから報告しない方が得だ」と感じていることがSNSや社内フォーラムで多く報告されています。
ここに対して有効なのが、「失敗報告に価値がある」という明確なメッセージです。ある製造業の企業では、「失敗報告に対して上司がまず『報告してくれてありがとう』と返す」というルールを導入したところ、報告の総数が3ヶ月で40%増加しました。
さらに、報告の中身の“質”も改善され、問題の早期発見ができるようになったという事例があります。
つまり、報連相の文化化において最も重要なのは、「報告しても責められない」「報告した方が合理的に得だ」と社員に思わせることです。
これは単なるルール整備ではなく、心理的安全性を意図的に組織設計に織り込むことによってのみ実現します。
3. 報連相が“成果”に直結することを可視化する
報連相が組織の成果にどのように貢献しているかを示すことで、社員の中で「やる意味」が明確になります。たとえば、「クレームを即時報告していたおかげで、大口契約の離脱を防げた」といった事例を全体会議やイントラで共有することで、「報連相が業績に直結している」と実感させることができます。
このような「可視化」は行動の強化学習において重要な役割を果たします。
報連相の結果が評価やフィードバックにきちんと反映される仕組みを構築すれば、社員は報連相を「自己防衛のための義務」ではなく、「成果を出すための戦略的行動」として捉えるようになります。
ある外資系企業では、報連相がきっかけで得られた顧客のインサイト(悩みやニーズ)を社内ナレッジとして蓄積するようになり、商談成約率が12ヶ月で17%改善したという報告もあります。
「文化としての報連相」を実現する組織の共通点
報連相が文化として根づいている組織には、共通する特徴があります。
組織の行動 | 文化的定着を促す要素 |
---|---|
上司自身が報連相を日常的に行っている | ロールモデルとなり、部下の行動規範になる |
失敗報告が歓迎される雰囲気がある | 心理的安全性が確保され、「隠す」リスクが減る |
報連相の成果が定量的に可視化されている | 社員が「やった方が得だ」と合理的に判断できる |
フォーマットやタイミングの基準が共有されている | 迷いが減り、行動のハードルが下がる |
これらの要素はすべて、社員が報連相を「ルールだからやる」のではなく、「やる意味があるからやる」と感じられる環境を作るためのものです。そして、その環境があってこそ、報連相は“習慣”から“文化”へと進化していくのです。
文化化には「意識」と「仕組み」の両立が不可欠
報連相を組織文化として根づかせるには、「やる気」や「マインドセットの問題」だけではなく、“仕組み化”と“心理的納得”の両面からのアプローチが必要です。
「ルールを守らせる」から「ルールに意味を持たせる」へ。「報告しなさい」から「報告してくれるとチームが強くなる」へ。そんな“伝え方”と“環境整備”の積み重ねが、報連相という行動を一過性の義務から永続的な文化へと昇華させるのです。
つまり、報連相の文化定着とは、単に社員を変えることではありません。組織のあり方そのものを変えることにほかなりません。
報連相ができない職場には、「納得できないルール」がある──行動を止める“見えない壁”の正体

「報連相が徹底されない」「注意しても改善されない」という職場に共通して存在するのが、“納得されていないルール”です。
表面的にはルールが存在しているものの、その背景にある目的や意味が共有されておらず、社員の中で「やる価値を感じられない」という無言の抵抗が起きているのです。
この現象は決して個人の怠慢や意識の低さではなく、組織構造とコミュニケーションの“制度疲労”とも言える問題です。ここでは、報連相を阻む「納得できないルール」の実態を、心理的・構造的な観点から掘り下げていきます。
ルールが“理解”ではなく“押しつけ”になると、行動は止まる
「報連相をちゃんとやれ」と何度言っても、報連相がされない。なぜでしょうか? それは、ルールが単なる命令になっていて、社員の中で“意味が言語化されていない”からです。
人間の行動は、外発的動機(指示・強制)よりも、内発的動機(納得・理解)によって安定的に維持されることが心理学の研究でも明らかになっています。
アメリカの心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した自己決定理論(Self-Determination Theory)によれば、人は「自律性」「有能感」「関係性」の3つが満たされると、自ら進んで行動するようになります。
ところが、「上司から一方的に押しつけられるだけの報連相のルール」は、この3要素すべてを損ないます。
- 自律性がない → 上司のために報告していると感じ、動機が湧かない
- 有能感がない → 報告しても何も変わらず、評価もされない
- 関係性がない → 報告しても否定されたり、反応が薄く孤独感が残る
結果として、報連相は「やらない方が得」と無意識に判断され、実行されなくなるのです。
数字が示す「納得されていないルール」の弊害
2023年にエン・ジャパンが行った「社内ルールに関する意識調査」(対象:20代~50代の会社員1,224人)によると、64%の社員が「自社のルールの目的がわからない」と感じていることが明らかになりました。
さらに、同調査では「意味がわからないルールは守らない・従いたくない」と回答した割合は全体の71%に達しています。これは、ルールの存在が“行動を促す”どころか“行動を止める”逆効果になっていることを示しています。
特に報連相においては、「報告したのにその後何も起きない」「怒られるだけで改善されない」という体験が、社員にとってルールの無意味さを強く印象づけています。このような経験が繰り返されると、「報連相はやっても無駄」「言わないほうが楽」という“組織的な学習性無力感”が浸透してしまいます。
社員が「納得できるルール」には3つの共通点がある
報連相が根づいている組織では、ルールそのものに対する理解と納得が前提になっています。
以下の3つの条件が満たされているケースが多く見られます。
- 目的が明文化されている
→「なぜ報連相が必要なのか」が説明され、社員全員が認識している。 - 行動の結果が見える化されている
→「報告が早かったから顧客対応が迅速化できた」といった成果が共有されている。 - ルールが柔軟にアップデートされている
→「この運用は形骸化している」など、現場の声に応じてルールが見直されている。
たとえばある小売業の大手チェーンでは、報連相が形骸化していたことを受け、「報告内容の“意味”を一言添える」というルールを追加したところ、社員の納得度が導入前の2.3倍(社内アンケートによる)に向上しました。
つまり、“内容”を変えるのではなく、“伝え方”を工夫することで、納得が生まれたのです。
「報連相ができない」は、ルールを疑うサイン
報連相がうまくいかない職場では、個人のやる気やスキルのせいにする前に、ルールの意味が共有されているかどうかを再点検すべきです。
もし、社員の側に「納得感」が欠けているなら、それは報連相という行動にとって致命的な障害になります。
ルールを守らせるのではなく、ルールの意味を伝え、共に納得すること。これが、報連相という行動を自然な文化に昇華させる第一歩です。
そしてその第一歩は、上司の「なぜそれが必要なのか?」という言葉から始まるのです。
報連相が定着しない理由:不公平感・恐怖・目的の不明瞭さが生む“沈黙の文化”

報連相(報告・連絡・相談)が組織に定着しない最大の理由は、社員一人ひとりの“能力の問題”ではありません。むしろ、組織の空気やルールの運用に潜む「不公平感」「恐怖」「目的の不明瞭さ」が、社員の行動意欲を静かに奪っているのです。
これらは外からは見えにくいですが、組織のパフォーマンスを著しく下げる“沈黙の文化”を生み出します。
「報連相が報われない」と感じた瞬間、人は黙る
多くの職場では、社員が報連相をしなくなる原因として、「怠慢」や「やる気の欠如」といった個人要因に焦点を当てがちです。しかし実際には、報連相をしたことで“損をした”と感じる経験が行動を止める大きな要因となっています。
次のようなケースです。
- 同じ失敗を報告したのに、「Aさんは褒められ、Bさんは叱責された」
- 報連相をきちんとしても、上司が無関心でスルーする
- 意見を相談したら「そんなの考えなくていい」と一蹴された
このような経験は、「報連相をしても意味がない」「むしろしない方が安全」と感じさせ、沈黙を生み出します。
実際に、2022年のパーソル総合研究所の調査によると、「職場で問題が起きても、上司に報告しないことがある」と答えたビジネスパーソンは43.2%にも上ります。
そのうちの半数以上が「報告しても改善されない」「評価されない」と感じていると答えました。
このことから、報連相の不定着は個人の努力不足ではなく、組織による“行動の無力化”の結果といえるのです。
不公平感が「自己防衛モード」を生む
人は不公平さを感じた瞬間、他者との比較の中で自己を守るようになります。これは行動経済学でいう「損失回避バイアス」の一種で、リスクを避けるために積極的な行動をやめる心理反応です。
たとえば、Aさんが率直に報告したことで問題が明るみに出た一方、黙っていたBさんは責任を逃れた――
このような場面に遭遇すると、報連相は「やった者負け」「正直者が損をする行動」として認識されるようになります。
こうした不公平感が繰り返されることで、職場全体に「言わない方が得」という暗黙の空気が蔓延し、報連相が“リスク”とみなされる文化が形成されてしまうのです。
報告=叱責という“恐怖の構造”が沈黙を加速させる
報連相が恐怖と結びついた組織では、報告や相談が“自己防衛のために避けるべき行動”とされます。とくに、「報告すると責任を押しつけられる」「相談したら無能扱いされる」という構造が存在すると、社員は沈黙を選ぶようになります。
日本労働組合総連合会(連合)が行った2023年の調査では、「上司に相談しにくい理由」として「怒られるから」「否定されるから」と答えた人が38.7%にのぼり、組織の中で報連相が「処罰される行動」として刷り込まれている実態が浮き彫りになっています。
この恐怖は、特に若手や中途採用者に強く影響します。なぜなら、彼らはまだ組織の中での立場が不安定であり、リスクをとってまで情報を出す動機が弱いからです。
つまり、報連相が定着しない背景には、「報告=不利益」と感じさせる仕組みが、意図せず埋め込まれているのです。
「そもそも何のために?」が明示されていない
もう一つの重大な要因は、報連相の“目的が不明瞭”であることです。
企業や上司が「報連相を徹底せよ」と指示する際に、「なぜそれが必要なのか」「それによって何が良くなるのか」という説明がなされない場合、社員はその行動を「上司の自己満足」「監視のための作業」として受け取ります。
実際、あるコンサルティング会社が実施したクライアント企業の社内アンケートでは、報連相を「業務の進捗を確認するための義務」としか認識していない社員が72%にのぼりました。
一方で、「問題の早期発見や業績改善のために必要だ」と回答した社員はわずか18%にとどまりました。
目的の共有がなければ、報連相は“やらされ仕事”になります。やらされ仕事は感情的抵抗を生みやすく、結果として無視・形骸化・拒否につながっていくのです。
沈黙は、個人の問題ではなく“構造の問題”である
報連相が定着しない原因は、単なる「怠け」や「やる気の欠如」ではありません。その根底には、
- 不公平な評価・対応
- 罰や叱責と結びついた恐怖
- 意義が語られないルールの強制
という3つの構造的・心理的要因が横たわっています。
そしてこれらはすべて、「組織設計の問題」であり、制度や上司の運用によって変えられるものです。
もし報連相がなかなか根づかないと感じているなら、「社員がやらない」のではなく「やる理由がない」と感じているのではないか――そう捉え直すことが、解決の出発点になります。
「報連相の意味と目的」を共有することで、初めて改善が始まる──「言わされる報告」から「考える報連相」へ

報連相(報告・連絡・相談)がうまく機能している職場では、単に「報連相しろ」というルールが存在するだけではなく、その“意味”と“目的”が明確に共有されているという共通点があります。
逆に、それが欠けている組織では、社員の側に“報連相をする理由”が腑に落ちておらず、「やらされ感」や「形だけの対応」ばかりが目立つようになります。
「報連相しなさい」だけでは、誰も動かない
上司が「報告・連絡・相談をきちんとするように」と何度注意しても、現場で改善されない理由は、その行動に“納得するだけの意味”が感じられていないからです。人間は、自分の中で意義づけができない行動を、長期的には続けられません。
たとえば、あるIT企業では、「毎日の進捗報告」を義務づけていたにもかかわらず、社員の約4割が「ほとんど形だけ記入している」と回答しました(社内アンケート)。
理由を尋ねると、「報告をしても、誰が見ているかわからない」「それによって何が変わるのかが不明」という声が多数を占めていました。
このように、報連相がルールとして存在していても、意味が伝わっていなければ形骸化するのです。
「報連相の目的」を知ることで、社員の意識は劇的に変わる
では、報連相の“目的”とは何でしょうか。それは単に「上司が把握するためのもの」ではなく、以下のような組織全体の機能向上を支える基盤です。
- 情報の早期共有によるトラブルの未然防止
- 意思決定のスピードと質の向上
- メンバー間の信頼形成と心理的安全性の確保
この目的が社員に正しく伝わると、報連相は“監視されるツール”ではなく、“自分と組織を守るための道具”という意識に変わります。
実際に、ある製造業の現場では、報連相の目的を「ライン全体の品質向上」「お互いの安全確保」として再定義し、全社員に共有したところ、報告件数が2.4倍に増加し、月間トラブル発生件数が30%減少しました(2023年度社内レポートより)。
つまり、目的の明確化が行動を引き出し、組織パフォーマンスに直結したのです。
「上司のため」ではなく「自分たちのため」と伝えよ
報連相がうまく機能していない職場ほど、社員が「上司に怒られないためにやる」「ルールだから仕方なくやっている」と捉えている傾向があります。これはつまり、報連相が“上からの指示”として機能しており、自分ごととして捉えられていない状態です。
このような状態を打破するには、「報連相は自分の仕事を円滑に進めるためのもの」という認識に変える必要があります。以下のような問いかけが有効です。
- 報連相をすることで、どんなトラブルを回避できるか?
- 報連相がなかったことで、過去にどんな失敗があったか?
- 相談し合える関係があれば、どんな仕事の質が上がるか?
これらを対話の中で共有していくことで、報連相は「自分たちのための行動」へと変わります。
また、Googleが行った大規模プロジェクト「Project Aristotle」では、チームの生産性を高める最も重要な要因は「心理的安全性」であると結論づけられました。
心理的安全性は、メンバーが気兼ねなく報告・連絡・相談できる状態のことを指します。つまり、報連相が活発な職場ほど、社員の創造性・積極性が高まり、最終的に組織全体の成果に影響を与えるのです。
報連相の定着は、“意味づけ”から始まる
報連相を改善したいとき、真っ先にすべきことは「頻度」や「形式」の改善ではありません。「なぜそれをやるのか」「誰のためなのか」という意味づけを、上司と部下のあいだで共通認識にすることです。
これがなされない限り、いくら仕組みを整えても、社員の報連相は形だけの義務にとどまり、改善の効果は限定的になります。
逆に、意味と目的が共有された瞬間から、報連相は「やらされるもの」ではなく「やりたくなる行動」へと変化します。それこそが、報連相文化の真のスタートラインなのです。
★この記事について:質問と答え
Q1. 報連相ができない社員には、どう対応すればいいですか?
A:
単に「報告しなさい」と指示するだけでは、行動は変わりません。報連相ができない背景には、「それをやる意味がわからない」「報告しても無駄だと感じている」などの心理的要因があります。まずは「なぜ報連相が必要なのか」「誰のために行うのか」といった目的を、対話を通じて共有することが重要です。
Q2. 職場で報連相が定着しないのは、どんな不公平感が原因になっていますか?
A:
報連相が定着しない職場では、「報告しても上司の機嫌で対応が変わる」「相談しても放置される」「特定の社員だけが優遇される」といった構造的な不公平感が背景にあることが多いです。社員は不公平さを感じると、報連相が「損な行為」に見え、消極的になります。まずは管理職の姿勢や組織の評価体制を見直すことが求められます。
Q3. 「報連相の意味を共有する」とは、具体的にどうすれば良いですか?
A:
「報連相の意味を共有する」とは、単に義務として押し付けるのではなく、報連相によってどんな良い結果が得られるのかを一緒に考え、納得してもらうプロセスを指します。たとえば、「相談が早ければミスが防げる」「連絡があればお互いに安心して仕事できる」といった効果を、事例を交えて説明することで、社員の自発的な行動を引き出せます。
▼今回の記事を作成するにあたり、以下のサイト様の記事を参考にしました。


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