「この方法なら絶対に得する!」そう言われたら、あなたはどう思いますか?投資、保険、ポイント還元、副業まで、「確実にプラスになる」と思える話は世の中にあふれています。しかし、本当にそうでしょうか?
たとえば、あなたは「キャッシュレス決済のポイント還元で得をしている」と思っていませんか?確かに、支払いのたびに数%のポイントがつきます。でも、ポイントがあるからと無駄な買い物を増やしてはいませんか?結果的に、得するどころか余計な出費が増えていないでしょうか?
「ピータースのコイントス」は、期待値がプラスなのに続けるほど損をする不思議なゲームです。これと同じように、「少しずつプラスになる」と思っていたものが、実は長期的には損になっていることがあるのです。
投資でも「年利○%で増える」と聞くと安心しますが、その間に大きな下落が続いたらどうなるでしょう?短期的な利益に目を奪われて、本当のリスクを見落としていませんか?
私たちは、確率やリスクを本当に理解できているのでしょうか?「確実に儲かる」と信じているものが、実は違うかもしれない——そんな視点を持つことが、大切なのかもしれません。
「ピータースのコイントス」のルールと見かけ上の有利性

「ピータースのコイントス」は、一見すると利益を得やすいゲームに思えます。確率の計算をすると、期待値はプラスであり、長期的に資産が増えるように見えます。しかし、実際にプレイし続けると、多くのプレイヤーが資産を失っていくという矛盾が生じます。
「ピータースのコイントス」のルールを詳細に解説
このゲームは、オーレ・ピータースによって提案されたもので、以下のルールに従います。
- ゲームの開始時に、プレイヤーは100ドルを持っている。
- コインを投げ、表が出た場合は資産の50%が増加する。
- 裏が出た場合は資産の40%が減少する。
- このゲームは何度でも繰り返すことができる。
このルールは、一見するとシンプルでありながら、数学的に注目すべき特性を持っています。では、なぜこのゲームは「必ずプラスになる賭け事」と誤解されやすいのでしょうか?
期待値の計算が「有利に見える」理由
このゲームの魅力的に見えるポイントは、勝ったときの報酬が負けたときの損失よりも大きいことにあります。
1回あたりの期待値の計算
このゲームの1回のコイントスにおける期待値を求めると、以下のようになります。
- 表が出る確率:50%(+50%の利益)
- 裏が出る確率:50%(-40%の損失)
数式で表すと、 E=(0.5×1.5)+(0.5×0.6)=0.75+0.3=1.05E = (0.5 \times 1.5) + (0.5 \times 0.6) = 0.75 + 0.3 = 1.05E=(0.5×1.5)+(0.5×0.6)=0.75+0.3=1.05
となり、1回ごとの期待倍率は 1.05、つまり 5%の利益 です。
通常、ギャンブルにおいて期待値がプラスであることは「勝ちやすいゲーム」の証拠と考えられます。例として、カジノのルーレットでは、プレイヤーの期待値は約0.97(約3%の損失)であり、ほとんどのギャンブルは期待値が1未満(損するゲーム)です。それに対して「ピータースのコイントス」は 1.05 であるため、「理論的にお金を増やせる」と思えてしまいます。
集団の平均資産は増加するという錯覚
このゲームが誤解されるもう一つの理由は、「集団全体の平均資産は増加する」という数学的事実にあります。
100人のプレイヤーがゲームをする場合
仮に100人がこのゲームに参加し、それぞれが1回ずつコインを投げたとします。
- 50人が表を出し、資産は 100 × 1.5 = 150ドル に増える。
- 50人が裏を出し、資産は 100 × 0.6 = 60ドル に減る。
このとき、全員の資産の合計は (50×150)+(50×60)=7500+3000=10500(50 \times 150) + (50 \times 60) = 7500 + 3000 = 10500(50×150)+(50×60)=7500+3000=10500
となり、元々の合計 10000ドル から 5% 増えている ことがわかります。
この結果を見ると、「やはりこのゲームは長期的に儲かるのでは?」と思ってしまいがちです。しかし、この平均資産の増加は、プレイヤー全員が独立して1回ずつプレイした場合にのみ成り立つものです。
個人の資産はなぜ減少するのか?
問題は、同じプレイヤーが何度もプレイした場合に何が起こるのか という点です。
資産が減少する仕組み(乗法的変化)
このゲームでは、各ラウンドの資産変化が 掛け算的に 影響を与えます。つまり、勝ち負けを繰り返すと、資産は単純な平均ではなく、幾何平均 によって変化します。
たとえば、表→裏の順で出た場合の資産の変化は以下のようになります。
- 100ドル → (表) → 150ドル(+50%)
- 150ドル → (裏) → 90ドル(-40%)
この時点で、元の100ドルから 10%減少 しています。
さらに続けてプレイした場合、
- 90ドル → (表) → 135ドル(+50%)
- 135ドル → (裏) → 81ドル(-40%)
と、資産は減少していきます。
一般化された数式(幾何平均)
資産の増減が掛け算的に作用する場合、個々のプレイヤーの 長期的な成長率(幾何平均) は以下の式で求められます。 G=(1.5×0.6)=0.9≈0.95G = \sqrt{(1.5 \times 0.6)} = \sqrt{0.9} \approx 0.95G=(1.5×0.6)=0.9≈0.95
つまり、1回あたりの成長率は 0.95(5%の減少)であり、長期的には確実に資産が減少する のです。
誤解の本質:「期待値のプラス」と「個人の成長率」は違う
「ピータースのコイントス」が誤解される最大のポイントは、「期待値」と「個人の資産の推移」の違い です。
- 期待値(算術平均) → 短期的に見ると、1回の賭けごとに 5% の利益があるように見える。
- 個人の成長率(幾何平均) → 長期的にプレイすると、資産が減少していく。
多くの人は「期待値がプラスなら儲かる」と考えます。しかし、期待値だけでは資産の現実的な変化を説明できない のです。
「必ずプラスになる賭け」ではない理由
- 期待値の計算ではプラスだが、実際の資産変化は掛け算的に進行するため、長期的に減少する。
- 複数のプレイヤーが1回ずつプレイすれば平均資産は増加するが、同じプレイヤーが繰り返すと資産は減少する。
- 「期待値がプラスだから儲かる」は誤りであり、幾何平均を考慮しなければならない。
このように、「ピータースのコイントス」は、表面的に有利に見えても長期的には破滅するゲームであり、投資や経済学においても重要な示唆を与えるものなのです。
エルゴード性の破れと「必ず儲かる」の誤解

「ピータースのコイントス」は、一見すると期待値がプラスであり、長期的に利益を得られるように思えます。しかし、実際には長くプレイするほど資産が減少する傾向にあります。このパラドックスの本質は 「エルゴード性の破れ」 にあります。
エルゴード性とは何か?— 平均の違いが生む誤解
エルゴード性とは、確率過程において 時間平均と集団平均が一致するかどうか を示す概念です。これは数学的な性質ですが、直感的に言えば、次のような質問に答えるものです。
- A.「大勢の人が1回ずつゲームをプレイしたときの平均」
- B.「1人のプレイヤーが長期間プレイしたときの平均」
エルゴード性がある場合 は、AとBの結果が一致します。たとえば、コイントスで表が出る確率が50%であれば、多くの人が1回プレイした場合と、1人の人が何度もプレイした場合の結果は統計的に同じになります。
しかし、「ピータースのコイントス」は エルゴード性が破れている ため、Aの平均(集団平均)は増加するのに、Bの平均(時間平均)は減少する という矛盾が生じます。
なぜ「ピータースのコイントス」はエルゴードでないのか?
1. 算術平均 vs. 幾何平均の違い
このゲームでは、各ラウンドでの資産の変化が 掛け算的(乗法的) に進行するため、通常の期待値計算(算術平均)が適用できません。代わりに、幾何平均を考える必要があります。
例として、次のようなシナリオを考えます。
- 初期資産:100ドル
- 1回目(表):100ドル × 1.5 = 150ドル
- 2回目(裏):150ドル × 0.6 = 90ドル
- 3回目(表):90ドル × 1.5 = 135ドル
- 4回目(裏):135ドル × 0.6 = 81ドル
結果として、4回プレイした後の資産は 81ドル となり、初期資産よりも減少しています。
このように、期待値(算術平均)ではプラスなのに、実際のプレイ結果(幾何平均)では資産が減少してしまうのです。
2. 幾何平均の計算
長期的に資産の増減を予測するには、幾何平均成長率を求める必要があります。 G=(1.5×0.6)=0.9≈0.95G = \sqrt{(1.5 \times 0.6)} = \sqrt{0.9} \approx 0.95G=(1.5×0.6)=0.9≈0.95
つまり、1回プレイするごとに資産が約5%減少する ことが数学的に示されます。これは、「時間平均的に資産が減少する」ことを意味し、「長くプレイするほど破産に近づく」ことを示しています。
エルゴード性の破れが生む直感的な誤解
なぜこのゲームが「必ず儲かるように見える」のか、その心理的な要因を分析します。
1. 「短期的な成功体験」によるバイアス
短期間の試行では、運が良ければ資産が増えることがあります。たとえば、10回連続で表が出れば、資産は 57倍(1.5¹⁰ ≈ 57) に膨れ上がります。
しかし、裏が続いた場合には わずか6%(0.6¹⁰ ≈ 0.006) にまで減少します。
このため、たまたま成功したプレイヤーの体験談が目立ちやすく、「勝てるゲーム」と誤解されやすいのです。
2. 「確率の平均」と「個人の経験」を混同する
数学的な期待値は 多数の試行の平均 を示すものであり、個々のプレイヤーの資産の変化を直接予測するものではありません。
たとえば、1000人のプレイヤーがこのゲームをプレイした場合、短期的には数十人が大幅に利益を出すこともありえます。しかし、長期的にはほぼ全員の資産がゼロに近づく というのが数学的な事実です。
「ピータースのコイントス」の教訓:エルゴード性を無視すると危険
このゲームの本質的な教訓は、「エルゴード性を無視すると意思決定を誤る」という点にあります。
1. 投資の世界での事例
金融市場では、「長期的な期待リターンがプラスだから安心」という考え方がよく見られます。しかし、市場の平均成長率がプラスでも、個々の投資家の資産が増えるとは限らない というのがエルゴード性の問題です。
たとえば、
- 市場平均リターンが年5%でも、暴落で-40%の損失が発生すると資産は回復しにくい。
- 期待リターンがプラスでも、個々の投資家の「時間平均」はマイナスになりうる。
このため、リスク管理や資産分散が重要 となります。
2. ギャンブルと確率論の誤解
カジノのルーレットでは、期待値が1未満(損をするゲーム)であるため、長期的には負けることが明白です。しかし、「ピータースのコイントス」のようなゲームでは、期待値が1を超えているため、「続ければ儲かるはず」と誤解しがちです。
しかし、実際には 長期的に見れば破滅する ため、単純に期待値を見るだけでは不十分なのです。
「ピータースのコイントス」とエルゴード性の理解
- エルゴード性とは、「時間平均」と「集団平均」が一致するかどうかの概念である。
- ピータースのコイントスでは、期待値はプラスだが、個人の資産は長期的に減少する。
- 幾何平均成長率を考えると、1回ごとに約5%の資産減少が起こる。
- 投資やギャンブルにおいて、期待値だけではリスクを正しく評価できない。
このゲームを理解することは、投資戦略やリスク管理においても極めて重要です。期待値のみに頼らず、「エルゴード性の破れ」を意識することが、賢い意思決定のカギとなるのです。
投資・経済学における示唆と欠落しがちな視点

「ピータースのコイントス」は単なる数学的なパズルではなく、投資や経済学において重要な教訓を与えてくれます。
投資におけるエルゴード性の誤解:なぜ期待リターンだけでは不十分なのか?
投資の世界では、「長期的には市場は上昇する」という楽観的な見方がよく見られます。しかし、この考え方は エルゴード性の誤解 によって、個々の投資家にとっては誤った結論を導きかねません。
1. 期待リターンと現実のリターンの乖離
株式市場の年間平均リターン(算術平均)は 約7〜10% とされています。しかし、幾何平均成長率(実際に個人が経験する成長率)はこれよりも低く、約4〜6% に収束します。
なぜか?
これは、市場の下落(マイナスリターン)が幾何平均を押し下げるため です。たとえば、
- 初期資産が100万円の場合
- +50%(150万円)
- -40%(90万円)
このように、平均リターンは+5%ですが、実際の資産は10%減少しています。これは「ピータースのコイントス」と同じ原理で、「長期的にプラスだから大丈夫」という考えが誤りであること を示しています。
2. 破産確率とドローダウンの影響
「ピータースのコイントス」が示すもう一つの重要なポイントは ドローダウン(最大損失) の問題です。
- 50%の損失を回復するには、100%の利益が必要
- 80%の損失を回復するには、400%の利益が必要
つまり、リスク管理を怠ると、一度大きな損失を出した場合にリカバリーが極めて困難になるのです。
3. ポートフォリオ理論との関係
ピータースの研究では、分散投資がエルゴード性の破れを補う方法である ことが示唆されています。つまり、1つのリスク資産に集中するのではなく、複数の資産に分散することで、時間平均リターンを安定させる ことが可能になります。
たとえば、
- リスク資産(株式)60% + 債券40% のポートフォリオは、
- 株式100%に比べて リターンは若干低いが、幾何平均成長率は向上する
- 最大損失(ドローダウン)が大幅に低減する
これは、エルゴード性の破れを軽減する実践的なアプローチであり、現実の資産運用において重要な示唆を与えます。
経済政策への示唆:成長指標の問題点と政策の落とし穴
「ピータースのコイントス」の問題は、個人の投資判断だけでなく マクロ経済政策 にも影響を与えます。
1. GDP成長率と国民生活の実感の乖離
政府や経済学者はしばしば「GDP成長率」を国の経済成長の指標として使用します。しかし、GDPは 集団平均(算術平均) であり、実際に個々の国民が経験する経済成長(幾何平均)とは異なる可能性があります。
例として、
- GDP成長率が年5% だったとしても、
- 富裕層の資産が+10%
- 中間層は+2%
- 低所得者層は-1%
このように、国全体の「平均」は成長していても、個人の生活水準が向上していない可能性がある のです。これは「エルゴード性の破れ」に起因する現象であり、政策決定において重要な視点を提供します。
2. 格差拡大とエルゴード性の破れ
資産格差が拡大する理由の一つは、リスク許容度の違いにあります。
- 富裕層:多くの資産を持ち、リスクを分散できる
- 低所得者層:資産が少なく、一度の損失が致命的
このため、富裕層はリスク資産での高いリターンを享受できるが、低所得者層はリスクを取る余裕がない という状況になります。
政府が行う金融緩和政策(低金利や量的緩和)は、資産を持つ層には恩恵がありますが、資産を持たない層には直接のメリットが少ないため、エルゴード性の破れが格差を拡大する要因となります。
行動経済学的視点:人間の誤った意思決定の原因
「ピータースのコイントス」は、人間が確率やリスクを誤って解釈しやすいことを示唆しています。
1. 期待値バイアスと過信の危険
人間は「プラスの期待値があれば、続ければ儲かる」と考えがちですが、これは 時間平均を無視した誤解 です。
たとえば、宝くじやギャンブルのようなゲームでは、
- 期待値がマイナス(長期的には負ける)でも「勝てる」と錯覚する
- 一度の成功体験が「また勝てるはず」と過信を生む
この心理バイアスは、投資の世界でも同様に働き、バブル崩壊時の過剰投資につながることがあります。
2. 損失回避バイアスと誤ったリスク管理
人間は「損失を過大評価する」傾向があり、リスクを避けすぎると逆に資産成長を妨げる というジレンマがあります。
たとえば、
- すべてを現金で持つと、インフレによる資産価値の減少に直面する
- 過剰なリスクを取ると、長期的には破産リスクが高まる
このバランスを取ることが、経済的成功のカギとなります。
投資・経済学における「ピータースのコイントス」の教訓
- 期待リターンと実際のリターン(幾何平均)は異なるため、期待値だけを基にした判断は危険
- 市場のドローダウン(最大損失)を考慮し、分散投資によってリスクを低減することが重要
- GDP成長率や政策の平均値だけでは、個々の経済状況を正しく把握できない
- 行動経済学的バイアス(期待値バイアス、損失回避バイアス)が意思決定を歪める
このように、「ピータースのコイントス」は、金融・経済政策・行動科学において多くの示唆を与えてくれる重要な概念なのです。
「ピータースのコイントス」の教訓

「ピータースのコイントス」は単なる確率論の問題ではなく、投資、経済学、意思決定の根本的な理解を問う深い示唆を含んでいます。このゲームが示す最大のポイントは、「期待値がプラスだからと言って、実際に儲かるとは限らない」 ということです。
この誤解は、金融市場、政策決定、個人の資産運用において重大な影響を与える可能性があります。
1. 期待値の誤解:「プラスなら続ければ儲かる」は本当か?
「ピータースのコイントス」では、1回のゲームの期待値(算術平均)はプラスになります。
計算すると、
- 表が出たら 資金が+50%(1.5倍)
- 裏が出たら 資金が-40%(0.6倍)
- 表と裏の確率は 50%ずつ
期待値の計算は以下のようになります。 (1.5×0.5)+(0.6×0.5)=0.75+0.3=1.05(1.5 \times 0.5) + (0.6 \times 0.5) = 0.75 + 0.3 = 1.05(1.5×0.5)+(0.6×0.5)=0.75+0.3=1.05
つまり、1回の期待値は +5%(1.05倍) であり、これを繰り返せば理論上は資産が増えそうに見えます。
しかし、この計算には 重大な落とし穴 があります。それは、「時間の経過とともに実際の資産がどう変化するか」を考慮していない点です。
幾何平均成長率との違い
本当に長期間ゲームを続けた場合、単なる算術平均(期待値)ではなく、幾何平均成長率(現実の成長率) を考える必要があります。
幾何平均成長率は、以下の式で計算されます。 G=1.5×0.6=0.9≈0.95G = \sqrt{1.5 \times 0.6} = \sqrt{0.9} \approx 0.95G=1.5×0.6=0.9≈0.95
つまり、長期的に見れば 1回あたり5%の減少(0.95倍)となり、むしろ資産は減少してしまうのです。
この結果から、「期待値がプラスだから大丈夫」という考え方が誤りであることが明らかになります。
2. リスクとドローダウン:一度の損失の影響を過小評価するな
投資や資産運用において、単なるリターンの計算ではなくリスク管理が最も重要である理由の一つに ドローダウン(最大損失) の影響があります。
損失の回復にはどれくらいの利益が必要か?
- 10%の損失 → 11%の利益で回復
- 20%の損失 → 25%の利益で回復
- 50%の損失 → 100%の利益で回復
- 80%の損失 → 400%の利益で回復
つまり、一度大きな損失を出すと、それを回復するのが極めて難しくなるのです。
「ピータースのコイントス」の場合、40%の損失を出す確率が50% もあるため、ゲームを続ければ続けるほど、破産のリスクが高まります。
この点は、投資の世界でも同じ です。特に 高レバレッジ取引 を行う場合、ドローダウンを無視すると致命的な損失につながる可能性があります。
3. 分散投資とリスク管理:唯一の対策は「リスクの分散」
ピータースの研究によれば、エルゴード性の破れを防ぐためには、リスクを分散することが不可欠 であることが示されています。
ポートフォリオの分散効果
たとえば、
- 株式100% の場合、リスクが高く、幾何平均成長率が低くなる可能性がある。
- 株式60% + 債券40% のポートフォリオでは、
- 期待リターンは若干低くなるが、幾何平均成長率は向上
- ドローダウンが大幅に減少し、長期的な成長が安定する
現実の投資における応用
実際に、多くの機関投資家や年金ファンドは、リスク分散を重視した戦略を採用しています。
- 例として、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は
- 株式50%
- 債券50%
という 分散ポートフォリオ を構築しています。
これにより、市場の変動に対する耐性を高め、エルゴード性の破れによる資産の急減を防いでいる のです。
4. 行動経済学の視点:「人間は確率を正しく理解できない」
「ピータースのコイントス」が示すもう一つの重要なポイントは、人間が確率やリスクを直感的に誤解する ということです。
期待値バイアスと過信
多くの人は、「長く続ければプラスの期待値に収束する」と思い込む傾向があります。これは、確率的な直感の誤り です。
特に投資の世界では、
- 過去に短期間で儲かった経験があると、長期的にも儲かると誤解する
- 過去の成功が未来にも続くと考える ヒューリスティックバイアス
このため、リスク管理を軽視し、破産の危険に陥る投資家が多いのです。
損失回避バイアスとリスク過小評価
一方で、人間は 損失を過大評価する傾向 もあります。
- これにより、過剰なリスク回避 をしてしまう
- 逆に、一度損失を出した場合、「取り返そう」として無謀な投資をする
こうした行動パターンが、金融市場の バブル崩壊 や 急激な市場の変動 を引き起こす要因となります。
5. 「ピータースのコイントス」の本質的な教訓
- 期待値がプラスでも、現実の資産は増えない場合がある
- 幾何平均成長率(時間平均)を重視しないと、実際の投資判断を誤る
- リスク管理(特にドローダウンの回避)が、長期的な成功のカギを握る
- 分散投資がエルゴード性の破れを補い、資産の安定成長を助ける
- 人間は確率やリスクを誤解しやすく、行動経済学的なバイアスに注意が必要
「ピータースのコイントス」は、単なる確率の問題ではなく、投資・経済・行動科学において極めて重要な概念なのです。