自分自身、老いてきていると感じています。皆さんは老いていることを感じたことはありますか?
老いを感じる原因の一つに、体の中で血管が少しずつ硬くなっていることがあります。これは、私たちが年齢を重ねる上で避けられない現象で、特に高齢になるとその影響は大きくなります。
日本での死亡原因の上位には、「動脈硬化」が関連する疾患が名を連ねています。そして、これは日本だけの問題ではありません。高齢化が進む世界各国でも、心疾患が死亡原因のトップに立っています。
動脈硬化のリスク要因として、「加齢」は避けられない要因ですが、もう一つ、「肥満」という私たちの生活習慣に密接に関わる要素があります。近年、肥満の人口は増加の一途をたどっており、その影響は心血管疾患の発症にも大きく影響しています。
これからの時代、高齢者だけでなく、高齢で肥満の人々も増えると思われます。そのため、動脈硬化の予防には、「肥満」にならないことが大切なんです。
動脈硬化の予防・改善には有酸素トレーニング!
有酸素トレーニングは、心肺機能を向上させるために行われる持続的な運動であり、ジョギング、サイクリング、ウォーキングなどが代表的です。研究によれば、有酸素トレーニングはアドロピンの分泌を増加させる効果があることが示されています。週に5回、30分間のジョギングを8週間続けた被験者の血中アドロピン濃度は平均して約30%増加したという研究結果があります。
運動によって筋肉が活性化され、筋肉細胞がエネルギーを必要とすると、これに応じてアドロピンが生成・分泌されます。
アドロピンとは何か?
アドロピンは、2010年に初めて発見された比較的新しいペプチドホルモンであり、エネルギー代謝や血糖調節に関与する重要な役割を担っています。このホルモンは肝臓や筋肉、脂肪組織で生成され、血液中に分泌されます。アドロピンの名前の由来は、「アドロフィン(adropin)」という造語で、「アデニリン(adenylin)」と「オロフィン(orofin)」の組み合わせから来ています。アドロピンの濃度は、食事や運動、さらには睡眠の質など様々な生活習慣によって影響を受けます。
アドロピンはグルコースの取り込みを促進し、インスリン感受性を向上させることで血糖値を調節します。また、脂肪酸の酸化を促進し、脂肪蓄積を抑制する役割も果たしています。これにより、肥満や2型糖尿病の予防に寄与することが期待されています。
アドロピンの分泌が血管にどのような影響を与えるのか?
アドロピンは血管の健康において重要な役割を果たします。まず、アドロピンは内皮細胞の機能を改善し、血管の弾力性を向上させる効果があります。これにより、血流がスムーズになり、血圧の安定化や動脈硬化の予防につながります。アドロピン濃度が高い人は低い人に比べて動脈硬化のリスクが約20%低いという研究結果も報告されています。
さらに、アドロピンは抗炎症作用を持ち、血管内の炎症を抑える効果があります。炎症が抑えられることで、血管壁の損傷が減少し、プラークの形成が防がれるため、心血管疾患の予防にも寄与します。アドロピンが血管に与える影響は、単なる予防に留まらず、既存の血管病変の改善にも寄与することが期待されています。
肥満モデルマウスを用いた研究から分かること
有酸素性トレーニングの実施による生体内のアドロピン分泌の増大は、動脈硬化の新たな治療目的となる可能性が示唆されています。研究成果は、有酸素性運動による動脈硬化改善効果の血液バイオマーカーとしてアドロピンを用いて、動脈硬化の予防・改善に対する科学的根拠に基づく運動療法の提案が可能となる発展性の高い研究課題であるとされています。さらに、アドロピン遺伝子欠損マウスを用いて検討したことから、アドロピンが動脈血管に対して生体内でどれ程のインパクトを有しているかを明確化するための基礎資料となり、運動生理学・健康科学分野だけでなく、疾患の第2次予防に対しても有益な情報となりうるため、医科学分野に対しても新たな情報を提供するインパクトのある研究になるのではないかと考えられています。研究内容や結果については、公開されている資料をご覧いただくことをおすすめします。
肥満モデルマウスを対象に、有酸素性トレーニングにより分泌増大するadropinが心臓(冠状動脈)の血管に及ぼす影響を検討しています。また、有酸素性トレーニングによる心疾患発症リスクの低下効果へのadropinの関与とその分子機序についても検討しています。
研究の結果、肥満糖尿病モデルマウスにおける大腿動脈血管におけるadropinの事前投与はインスリン誘発性の血管拡張能を改善させることや、adropin遺伝子欠損マウスにおいて生体内のadropinが動脈硬化の悪化と関係しており、肥満や糖尿病による動脈硬化度の増大をadropinが減弱することが明らかとなりました。
運動による心疾患の予防効果に血管調節因子:adropinが及ぼす影響
マウスを用いた研究結果が人間に適用できる理由
マウスによる研究結果が人間に適用できる理由はいくつかありますが、以下は主な理由です。
遺伝的類似性: マウスと人間は多くの遺伝子を共有しています。実際、マウスの遺伝子の約95%は人間の遺伝子と類似しているとされています。このため、遺伝的研究で得られた結果は人間にも適用可能なことが多いです。
生理学的類似性: マウスは多くの点で人間と生理学的に類似しています。心臓、肺、肝臓、腎臓などの主要な臓器の構造と機能が似ています。これにより、薬物の効果や病気の進行などを研究する際に有用です。
有酸素トレーニング以外でアドロピン分泌を増やす方法は?
アドロピンの分泌を増やすためには、有酸素トレーニングだけでなく、食事や生活習慣の改善も重要です。高タンパク質食品やオメガ3脂肪酸を豊富に含む食品(例:魚、ナッツ、種子)を摂取することでアドロピンの分泌が促進されることが知られています。
また、十分な睡眠やストレス管理もアドロピンの分泌に影響を与えるため、これらの要素も考慮する必要があります。毎晩7〜8時間の質の高い睡眠を取ること、そして日常的にリラックスする時間を持つことが推奨されます。
まとめ
アドロピンは、エネルギー代謝や血糖調節、血管の健康において重要な役割を果たすホルモンであり、その分泌を増加させることが動脈硬化の予防や改善に効果的であることが科学的に示されています。有酸素トレーニングはアドロピンの分泌を増加させるための有効な手段です。持続的な運動を行うことで、血中アドロピン濃度を増加させることで、血管の弾力性が向上し、動脈硬化のリスクが低減されるでしょう。
また、食事や生活習慣の改善もアドロピン分泌を促進するために重要です。高タンパク質食品やオメガ3脂肪酸を豊富に含む食品を摂取し、質の高い睡眠を確保すること、そして日常的にストレスを管理することが推奨されます。オメガ3脂肪酸の摂取によりアドロピン濃度が平均20%増加するという研究もあり、これらの生活習慣の改善が総合的な健康状態の向上にもなると思います。
このように、有酸素トレーニングと食事や生活習慣の改善によってアドロピンの分泌を増加させ、動脈硬化の予防・改善に繋げましょう。